第28話

想像していたよりも(と言うと失礼だが)、りほの部屋は綺麗だった。

お洒落な時計、壁に貼られたバンドのポスター、大きいベッド。

最初からそこにあったかのような雰囲気を醸し出しているが、どれも最近買ったものらしい。

「ゆうちゃんがいつ来てもいいように準備しといたんだよ。

 あ、このクッション使って」

そう言いながら、パンダのイラストが描かれたクッションを僕の足元に置いた。

お言葉に甘えて、そのクッションに体重を預ける。


「なんか映画見ない?見たいのある?」

Netflix、Amazonプライム、Hulu、ディズニーチャンネル。

主要なサブスクリプションを全て網羅しているりほが、テレビのリモコンを触りながら僕に聞いてきた。

「んー、なんでもいいよ。りほが見たいの見よ」

なんでもいいよ、という言葉はよくないらしい。

自分から行きたい場所、食べたいもの、見たいものを言わないといけないということを最近知った。

でも、本当になんでもいいのだ。

なんでもいいと言う代わりに、相手が選んだ選択肢を全て受け入れる。

その覚悟があって、僕はなんでもいいと言っているのだから、許してほしい。

「じゃあねー、これでいい?まだ見たことないんだよね」

「いいよ。俺も見たことないし」

記憶障害を抱える娘と向き合う父親の姿を描いたこの映画は2年前に公開され、大きな反響を生んだ。


「じゃっこれにしよ!」


2人でクッションに座りながら、2年前の名作を見た。

カップルでの映画鑑賞なんて、もはや映画はおまけみたいなものだ。

映画を見てる途中からなんかいい雰囲気になって、、。みたいな話がこの世にはよくあるし、実際、僕とりほも今までそういうことがあった。

今回も若干その展開を期待していたのだが、そうはいかなかった。

上映開始5分で、りほが泣き出したのだ。

どこで涙腺が刺激されたのか分からないが突然泣き出し、その後も何度も泣いていた。

クライマックスのシーンでは嗚咽するほどの号泣だったため、いい雰囲気になんてまったくならなかった。

映画自体すごく面白かったから、僕もそんな気にはならなかったけど。


「なんで泣いてないの?面白くなかった?」

ティッシュで目を擦りながらりほが言う。

「いや、面白かったよ。泣きそうになったけど我慢したんだよ」

「泣くとこ見たかったのにー。もう一作見る?」

「二作連続で映画見る体力あるの?」

「んー、ない!」


大袈裟に首を横に振りながらそう言って、りほはベッドに倒れ込んだ。

「ゆうちゃんもベッドおいで」

りほの言葉に素直に従い、僕もベッドに寝転ぶと、りほは僕の首筋にキスをした。

僕もキスをし返す。次はりほから。今度は僕から。

何度かそうしていると、りほは突然ベッドから立ち上がり、部屋のドアの方に向かった。

「一応、鍵閉めておくね」

ドアの鍵がかかっていることを確認すると、勢いよくベッドに戻ってきて、僕に覆いかぶさる。

シャンプーの匂いと髪の毛が、僕の鼻をくすぐる。

さっきまでの続きをするように、僕らはまたキスをした。

彼女の実家で、しかも今日が初訪問なのだから、流石にここで行為をするわけにはいかないと思いつつも、下半身は嫌になるほど正直だった。

葛藤を抱えながらキスをしていると、珍しくりほから触ってきた。

「お父さんもお母さんもリビングにいるでしょ?」

「リビングだから大丈夫だよ。鍵閉めてるし」

甘い声と撫でるような触り方に、僕の理性は爆発寸前だった。

それでも何度か断ったが、「大丈夫だから」とりほは服を脱がしてくる。


結局、最後までした。

ベッドができるだけ軋まないように優しく動き、声を殺しながらした。

背徳感と興奮はどこか似ているらしく、いつものホテルでする時よりも、僕らの体温は熱くなっていた気がする。



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