第27話

僕の家から徒歩10分、りほの家から徒歩5分の所に小さなケーキ屋さんがある。

その狭い店内で僕はバラエティ豊かな洋菓子達と睨めっこしていた。

ケーキを一切れ買っていくのはなんかけち臭いし、かといってホールで買ってくのは大袈裟すぎるしなあ、、。

なんてうだうだ迷っている様子を見かねた店員さんが僕に声をかけてきた。

「何かお探しですか?」

いつもは鬱陶しく感じてしまう店員さんからの声かけも今日は有り難い。

「あっ今日これから彼女の家に行くんですけど何かいいものないかなって。手ぶらで行くのもあれなんで、、」

洋菓子初心者であることが透けて見えるような、たどたどしい口調で僕は言った。

「あーそうなんですね。結婚のご挨拶とかでしょうか?」

店員さんの真っ直ぐな眼差しと言葉に思わず吹き出しそうになった。

まだ付き合って半年なのに結婚なんて気が早すぎる。

そりゃあいつかできたらなんて思ってはいるけど、、。

「いやいや。ほんとにただ彼女の家に遊びに行くだけなんです。

大袈裟になりたくはないんですけど何か買って行ったほうがいいかなと思って」

「そうだったんですね。それは失礼いたしました。

それでしたら、こちらの洋菓子の詰め合わせがおすすめでございます。

値段もリーズナブルですし、箱も可愛らしくてちょうどいいかなと」

そう言いながら、猫のイラストが印刷された箱に包まれている洋菓子の詰め合わせを僕におすすめした。

プロの言うことは間違い無いだろうと思い、店員さんの言うとおりにそれを購入した。


店員さんの丁寧なありがとうございましたを背中で受けて、僕はここから歩いて5分のりほの家に向かった。

最近自分の部屋を模様替えしたらしく、たまには家で遊ぼうとこの前誘われた。

女の子の家に上がるなんて初めてだし少し心躍っているが、僕も彼女も実家暮らしだ。

家に行くということは両親に会うということ。

そういうコミュニケーションが元来得意ではないし、りほと遊んだ日はホテルに泊まって朝帰りなんてこともざらにあるので、きっと僕の印象はあまり良くないだろう。

自分の大切な娘を連れまわしている下心丸出しの猿野郎と思われているに違いない。

さっき買った洋菓子の詰め合わせと緊張と不安を抱えながら歩いていると、あっという間にりほの家の前に着いてしまった。

「ついたよ」とりほにLINEをすると、家の中から階段を降りる音が微かに聞こえ、りほが家の扉を開けた。

「いらっしゃいませ。あがってあがって」

りほに手招かれ、玄関で脱いだ靴を綺麗に揃える。

扉の向こうがリビングでそこに両親がいるらしい。

「ママー、ゆうちゃんきたよ」

りほが両親を呼びに行き、リビングのソファから父、キッチンから母が僕の目の前に現れた。

「あらーいらっしゃい。いつもりほがお世話になってます」

「おーゆうちゃん。りほから色々話聞いてるよ」

父も母も思っていたよりフランクに挨拶してくれて、少し気が軽くなった。

「お邪魔します。いつもお世話になってます。すみませんこれよかったら」

「えー!こんなのいいのにー。ありがとう。ゆっくりしていってね」

「はい、ありがとうございます。お邪魔します」

何度も頭をぺこぺこ下げながらどうにか挨拶を終わらせ、二階にあるりほの部屋に向かった。

階段を上っている途中、りほが「しっかり挨拶できたじゃん。」と僕の頭をぽんぽんと優しく叩いた。よっぽど社交性がないと思われているのだろうか。



「ごめん、さっき掃除したんだけど部屋汚いかも。許して」

そう言いながらりほはドアを開け、僕の視界いっぱいにりほの部屋が映り込む。

女子の部屋、しかも実家ということが、僕をよりいっそう緊張させた。

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