第26話

ソファの上で最初に唇を重ねるときはひどく緊張したが、一度してからは緊張が少し和らいだ。

さっきの続きを描くように、ベッドで寝転びながら再びキスをする。舌を絡め合う。

絡め合うたびに脳から興奮物質が分泌されていくのを感じ、下半身に血流が集中する。

手順や流れなんて何も分からなかったが、その戸惑いや不安よりも興奮が勝った。

繋いでいた右手を離し、りほの胸に手を伸ばす。

控えめに膨らんだそれを服の上から優しく揉む。

舌と舌を絡めながら両手で何度も触ったあと、今度は服の中に手を入れた。りほも最初は抵抗してきたが、その腕をはらって下着の中に手を忍び込ませ、そこにある突起物を撫でるように触ると艶めかしい吐息を漏らした。

「電気消して、、。恥ずかしいから」

と僕に言ってくる頃には、既に覚悟を決めたような、諦めたようなそんな表情をしていた。



そこから僕らは暗闇の中でまた続きをした。

服を脱がした後慣れない手つきでホックを外し、露わになった上半身を手探りで撫でる。初めて触った女性の胸は思っていたよりも柔らかく、その感触が僕をいっそう興奮させた。

その勢いのままズボンも脱がし、水色の下着の上から秘部を触ると、胸を触った時より大きな吐息を漏らした。

下着も脱がそうとすると「恥ずかしいからやだ」と口では言うものの、僕が下着を脱がし易いように腰を少し浮かせている。

正直、僕はりほが嫌がろうが何をしようが言う事を聞けないぐらいに興奮していた。

興奮に従い、下着を脱がして直接触るとりほはまた声にならない声を出す。

表面を何度かなぞり指を下まで持っていくと、あれを挿入する場所であろう空間があった。

いつか動画で見たように中指をそこに入れると、確かな熱と粘り気を感じる。

そのまま穴の中で指を動かすと、今までで一番大きい声でりほはよがった。


ずっとこうしていたいという気持ちと、早くこの先に行きたいという気持ちの葛藤を抱えたまま僕も服を脱ぎ裸になった。

自分以外の人間に初めて性器を触られた。

今まで何回何十回何百回もしてきた単純なその上下運動も、自分以外の誰か、というか自分の好きな人にされるだけでこんなにも気持ちよく興奮するものなのだと初めて知った。

何分間かそうされただけで果てそうになってしまい、焦って僕はりほの右手を押さえ、枕元に置いてあった小さな箱から避妊具を取り出して装着した。


「、、入れていい?」

僕がそう聞くとりほは小さく頷いた。

さっきまで指で掻き乱していたその穴に自分の性器をゆっくり挿入する。

りほは苦悶の表情を浮かべながら、両手でベッドのシーツを固く握っている。


「ごめん、痛い?」

「、、ちょっとだけ。でも大丈夫」


少しずつりほの内側に近づいていく。

何回か試行錯誤しながら、僕らは一つになった。

キスをしながら、舌を絡めながら、胸を触りながら。

正直相手の事を考える余裕はなく、自分の欲望のままに手を、舌を、体を動かした。

初めて見せるりほの表情に、初めて聞くりほの声に、初めてこんなに近く感じる体温に、体の柔らかさに触れているうちにあっという間に果ててしまった。



行為が終わった後、僕らは裸のままベッドの上で何もない天井を見つめていた。部屋に備え付けられている暖房の音と時計の秒針の音だけが響いていた。

抜け殻のようにぼーっとしていると、りほが僕の胸に顔をうずめ、抱きついてきた。

僕も自分の腕をりほの背中に回し、軽くキスをする。りほからもキスをしてくる。

行為の後初めて目が合って、それがなぜか気まずくてお互いふふっと笑った。

「だいすき」

初めて会った時と何も変わらないその笑顔で、りほは僕に言う。

「だいすき」と僕も言い返す。

また強く抱きしめ合う。


人生にピークがあるのだとしたら、全盛期みたいなものがあるのだとしたら、それは間違いなく今なんだろうなと思った。

それと同時に、このピークは一体いつまで続いてくれるんだろう。

いつこの幸せな日々は終わってしまうのだろうと考えた。

僕は打ち上げ花火を見たとき、一発目の花火が打ち上がったその瞬間から、

最後の花火が消えていくあの切なさを考えてしまう人間だ。

そのせいで一発一発の花火を心の底から楽しめない。

花火が上がるたびにわあっと大きな歓声をあげる人たちがずっと羨ましかった。


りほと付き合ってから初めてのクリスマス。恋人と過ごす初めてのクリスマス。

一発目の大きな花火が、確かに今夜打ち上がった。

あと何回花火は打ち上がるんだろう。あと何回この花火を見てられるんだろう。

急に目頭が熱くなって、急いで僕はりほから顔を逸らした。

「どうしたの?」と聞いてきた。

「なんか目が乾燥して痛い」と適当に誤魔化したが、僕の目からは確かに涙が溢れていた。

一発でも多くの花火が打ち上がりますように。

できるだけこの夢の時間が長く続きますように。

そう願いながら、僕はりほにばれないように顔を背けて、世界で一番幸せな色をした涙を流した。




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