第24話

「じゃあ、ホテル泊まる?」

どっかに行こうの「どっか」は、僕にとってホテルしかなかった。

僕が意を決してそう提案した途端、りほの顔がゆっくりと赤面していくのが分かった。

「えっホテルって?」

「ホテルはホテルでしょ、、。そういう系の、ホテル、、」

ラブホテルに行った経験なんて一度もない僕にとって、彼女をスムーズにホテルに誘うということは簡単ではない。

「、、ちょっと恥ずかしい」

りほは赤くなった顔でそう言った。

なんだよ。

どっか行こうよってホテル行こうよって意味じゃないのか?

自分から匂わせてきたくせに。と思ったが、どうやら僕の言い方が悪かったらしい。

ホテル泊まる?ではなく、ホテル行こうよ。と言わなくてはいけなかったのだ。

疑問形で相手に判断を委ねてしまうと、彼女側の意志でホテルに行ったということになってしまう。そうではなく、彼氏が行きたがったから仕方がなく行きましたよ。という体裁がどうやら必要らしい。

そのためにはもっと強引に誘わなくてはいけなかったのだが、僕が元来持つ相手に判断を委ねるという性格の悪い癖がここでも出てしまった。恋愛におけるマナーとかとか駆け引きとか、そういったものが未だによく分からない。


「えっ行きたくないの?」

「行きたくないっていうか、、」

「じゃあ行く?」

「えー、でもなあ、、」

ホテルに行くことを決めたという責任をなすりつけるための駆け引きをお互いがし始め、なんとも不毛なやり取りが続いた。

結局、じゃんけんで僕が勝ったらホテルに行くということになった。

りほの提案だ。

まさか今日彼女と初めてのラブホテルに行くなんて夢にも思っていなかったが、この後行けるのかもしれない、人生初めてのあれをするのかもしれないと考え始めた途端、それだけで下半身に血流が集中した。


こんなに負けたくないじゃんけんは人生で初めてだ。

右手の拳に思いっきり力を込める。

「さいしょはぐー、、じゃんけん、、、、ぽいっ!」


「あー、負けた、、、」

りほはそう言ってへたりと床に座り込むそぶりを見せる。

悔しそうな態度を見せるものの、心から残念そうには見えない。

僕は心の中で過去一のガッツポーズを掲げていたが、それを悟られないように平静を装った。


なにはともあれ、僕らはこのままホテルに行くのだ。

じゃんけんで空気が少し和んだものの、その事実に改めて直面するとやはり緊張した。

2人の間に若干の気まずい沈黙が流れる。

「、、じゃあ、行く?」

そう言いながら僕はりほの手を握り、僕らの最寄り駅に唯一存在するラブホテルに向けて歩き出した。

興奮と緊張をりほに悟られないように、次第に大きくなるこの心臓の音を聞かれないように、わざといつもよりゆっくり歩いた。




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