第21話

いつものバスに乗り、 いつもの駅に着いて、いつもの改札を抜ける。

昨日までと何も変わらない日常のはずなのに、昨日までと比べると足取りが異常に軽い。

付き合う前から登下校は一緒にしていたが、付き合ってからは初めてだ。

恋人になったりほと今日初めて会う。

階段をくだりホームにおりて、7号車に向かって歩く。

2人で登下校する時、集合場所はいつも7号車なのだ。理由は特にない。


ホームのベンチにりほが座っていた。

さすがの僕でも、おはようと挨拶することにもう抵抗はなくなっている。

「おはよ。ちゃんと昨日のこと覚えてるよ。記憶飛んでないからね」

ワイヤレスイヤホンをリュックにしまいながらりほはそう言った。

「そりゃよかったっす」

友達から恋人に変わっただけなのに、今までなんとなくしていた会話がやけに照れ臭い。

少し気まずさを感じている僕とは裏腹に、りほは今まで通り電車の中で僕に話し続けていた。

「ゆうちゃんみんなに言った?付き合ったこと」

「仲良い人にはね。電話する前にその場にいたし」

「なんか学校のみんなに会うの恥ずかしいね」

「まあまだ皆そんな知らないと思うから大丈夫だよ」


教室に入ると、高原たちがにやにやしながら僕に近づき、肩を殴ってくる。

「おめでとう!ついにやったなー」と祝福される。悪い気はしなかった。

いつも通り授業を受けて、帰りにまたりほと待ち合わせて2人で帰る。

付き合う前からこのルーティンワークだったはずなのに、1日がやたらと新鮮に感じる。

僕は分かりやすく浮かれていた。

帰りの電車で話していたら、「今日なんか機嫌いいね」とりほに笑われた。

好きな人が隣にいるこの状況で、機嫌が悪くなるわけがない。


家に帰ってからも、りほの事ばかりを考えていた。

付き合う前から色々な妄想を膨らましていたが、付き合ったことによってりほのことを考えてもいいという権利を正式に渡されたような気がする。

生まれて初めてと言っても過言ではないこの不思議な幸福感と、高揚感と、少しの不安に僕は戸惑っていた。

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