第14話

大学生専門学生が安い居酒屋に集まった時にする会話の内容は全国共通だ。

十中八九、下ネタか恋愛の話か。


初めて2人で遊ぶ女の子に下ネタを吹っかけるほど自制心がぶっ壊れてはいなかったが、調子に乗って摂取しすぎたアルコールで判断能力が鈍っていた僕は土足で村山さんのプライベートに上がり込んだ。


「彼氏いるの?」

村山さんに心配されるほど赤くなった顔面で、僕は躊躇なく聞いた。

「いたら男の子と2人で居酒屋来ないよ」

村山さんも顔が少し赤くなっていた。

どういう意味だろう。僕を男として見てるということだろうか。

他人の言葉の裏側をすぐに汲み取ろうとしてしまう癖をいい加減直したい。

「元彼は?何人ぐらいいたの?」

この際だ。全部聞いてしまえ。

アルコールに助けられているのかアルコールに首を絞められているのか自分でも分からない。

少し間を空けて村山さんは言った。

「元彼か〜。そりゃあいたけどねえ、あんまりいい恋愛してこなかったんだよね」


普段の僕なら、少し話す事を躊躇したような村山さんの表情を瞬時に確認し、そこからは無理に詮索しないという判断ができるぐらいの思慮深さは持ち合わせている筈だが、今日だけは例外だ。僕は今アルコールを摂取している。アルコールは時に人を勇敢にさせる。

「いい恋愛をしてこなかったってどういう事?」

「んー、色々あるけどねえ、高校の時好きだった人の浮気相手にされちゃったことがあってさ。りほは知らなかったんだけど。

彼女いる事隠されて近づいてきて何回も遊んでキスもしてそろそろ付き合えるかな?と思ってた時に向こうが彼女いること知っちゃってそれっきりって感じ。元々豆腐メンタルだったのにその件があったからショックで数年恋愛できなかったの。最低だと思わない?そいつのせいで高校生活殆ど棒に振ったようなもんだよ?」

「それは確かにやばいね、、。偉そうなことは言えないけど、、」

こういう時に当たり障りない言葉しか言えない自分が大嫌いだ。


最低だね。俺はそんなことしないよ。


ぐらいまで言える人間だったら人生は変わってたのだろうか。

結局僕はアルコールが入ってもそこまでの大口は叩けず、村山さんはキスをした経験があるという至極当然の事実に怯んでしまうようなスケールの小さい人間でしかない。

「で、高3の冬に今度はTwitterで仲良かった人と付き合ってたんだけど遠距離でさ。結局付き合ってから1回も会わないまま一ヶ月ぐらいで別れちゃった」

今度は村山さんから話してきた。

「Twitterで仲良くなるってどういうこと?」

「りほロック好きだからTwitterの趣味垢やってるんだけどそれのFFの人。やっぱ遠距離向いてないのかな〜ってその時思った」

SNSで知り合った人と付き合うことができる時代なのか。

すごい時代になったものだなと老人のような気持ちになった。

「じゃあそれ以降は特になんもない感じなの?」

「そうだね。今までいい恋愛できなかったからもう恋愛自体向いてないのかなってたまに思っちゃう」


恋愛の話、部活の話、家族の話、将来の話。

その後にしたどんな話よりも、「いい恋愛をしたことがない」と自嘲気味に笑う村山さんの表情が一番記憶の中に残った。


じゃあ俺と「いい恋愛」しようよ!なんてキザなセリフは当然言えなかったけど。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る