第12話

「わーすごい!」

目の前にそびえ立つ大きな観覧車を見て、村山さんは目を輝かせた。

「なんか乗りたいのある?」

「んー、じゃあ手前のやつから乗ってこ!」

券売機でお金を払い、ギャラクシーというアトラクションのチケットを発券した。

こういう時は男が奢るものだろうと思い僕がお金を払ったが、村山さんも譲らず、無理やり僕のリュックにお金を詰め込んできた。

「ていうか、アトラクション乗れる人なの?」

乗れない場合は時既に遅しだが一応聞いた。ちなみに僕は大の苦手である。

「いや〜、あんまり得意じゃないよ。でもこんぐらいだったら大丈夫かな」

「まあこれはそんなに怖くなさそうだもんね」

そう言ったものの、僕の心臓は恐怖と不安でバクバクしていた。

スタッフに誘導され待機列に並ぶと、どこを見てもカップルだらけだった。

さすがはデートの聖地みなとみらい。

客観的に見たら僕ら2人もカップルに見えているのだろうか。

そうであったらなんか嬉しいなと思いつつ。


ギャラクシーに乗り込み、シートベルトを腰に巻く。

二人乗りのアトラクションだから、村山さんとの距離が近い。

アトラクションへの不安と距離感に対する戸惑いで心臓がもうわけのわからないことになっていた。

「それでは発車しま〜す!いってらっしゃーい!」

テンプレート化された声色でスタッフが合図をし、ギャラクシーが始まった。

ゆっくりと回り始め、次第に高くなっていく。

高所恐怖症の僕は3周目ぐらいの段階から早くも体にかかるGの負担に限界を迎え、目を瞑りながら「あーもう無理だ!無理無理!」と叫んでいた。

村山さんは隣で「大丈夫だから!ほら目開けて!景色きれいだよ!」と僕に負けない声量で僕を諭した。

機体はさらに回り、ぐんぐんと高度を増していく。

「無理だって!あああーー!」

僕はまた叫ぶ。目を瞑って絶叫する僕を見て、村山さんはゲラゲラと笑った。

よろけながらギャラクシーを降り、情けない姿を見せてしまったなと反省していると、村山さんはむしろ僕のその姿を楽しんでいるようで、「さあ、次乗ろ!」と気合が入っていた。鬼だと思った。


ギャラクシーはどうやらアトラクション入門編だったらしい。

アトラクションに乗るごとにアップダウンの激しさは増し、体にかかるGも比例していく。

「まじでやばい!死ぬ!」

「もう降りよ!ほんとに、、あああああ!」

「ちょっ、、ああ落ちるううああああああ!」

リアクション芸人ばりに叫ぶ僕を見て村山さんは腹を抱えて笑っていた。

どのアトラクションも村山さんは飄々としていた。なにがあんまり得意じゃないよ、だよ。

一通りのアトラクションを乗り終えた頃にはもう日が沈み始め、僕はふらふらになっていた。悶絶する僕を笑ってくれたけど、内心ドン引きしているに違いない。

「なんかごめん、、。男のくせにこんなビビりまくって叫びまくって、、」

本音だった。

「いやほんとに全然大丈夫だよ」

村山さんはまだケラケラと笑っている。

「ずっとお腹痛かったもん。今まで一緒にアトラクション乗った人の中で一番面白かった」

笑いながらそう言ってくれた。

多分、いや絶対、深い意味は無い。思いつきで言っただけだ。

だけど僕にはその言葉が嬉しかった。

周りからあまり褒められず、自分でさえ自分のことを否定してしまう僕だが、誰かに面白いと言われる、誰かが自分を肯定してくれるってこんなに嬉しいのかと驚いた。彼女はそんな深い意味で言ったわけではないと思うけど。


「もう一回、、もう一回あのアトラクション乗ろ!」

村山さんが面白いと言ってくれて調子に乗ったのか、何故か僕はアトラクションを指差してもう一度乗ろうと誘っていた。

しかも、コスモワールドで一番怖いアトラクション。


何回乗っても結果は同じだった。

待機列の段階から心臓の鼓動が早まり、アトラクションに座るとその鼓動はさらに早まる。動き出した瞬間頭がパニックになり、本当に死ぬんじゃないかと思う。

とんでもないスピードで体が強制的に空に運ばれる。

僕は1回目と同じく、いや一回目以上に叫んでいた。

「ああまじで死ぬ!なんでこんなの乗ったのおおおお!」

「乗ろって言ったのそっちじゃああん!」

村山さんは僕を真似して叫んだ。1回目と同じく、いや1回目以上に笑っていた。


僕も叫びながら笑った。


叫びながら、村山さんがこんなに笑ってくれるなら何百回でもこのアトラクションに乗ってやると思った。いや、何百回は言い過ぎだな。5回ぐらいだったら、頑張って乗れるかもしれないなと思った。

それぐらい、村山さんの笑顔には爆発力があった。

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