第10話

「ほんとに誘うけどいい?笑」

20時45分。

村山さんが僕のインスタに反応してから1時間15分経過。

早すぎるとがっついているように見えるし遅すぎると無関心に見える。

絶妙なタイミングだ。今しかない。そわそわしながら僕は送信ボタンを押した。

送信直後、またそわそわの発作がが始まる。

あの文章で良かったか?ほんとに誘うけどいい?笑なんて女々しい男全開の文章じゃなくてもっと男らしく、反応ありがとう!飲み行こ!とかのストレートな言葉の方が良かったか?いやでも普段からなよなよしさ全開の僕が無理してそんな文章送っても「あ、この人SNSとリアルでキャラ変わるタイプなのね。」と思われそうだしこれで良かったのか?

事あるごとに繰り返される脳内反省会。

この反省会が役に立ったと思ったことは、今まで一度もない。


再びが携帯がブッと音を立てて振動した。

今度こそゲームの通知だろうか。そういえば今日からランキングマッチが始まるんだったっけ。


リホさんからメッセージが届いています。

「全然いーよ!笑むしろ行きたい!」


誇張抜きでひっくり返った。

ベッドの角に頭を打ち悶絶する。

ぶつけた箇所を左手で撫でながら半信半疑で再び携帯を覗くと、やはり村山さんからのメッセージだった。

僕がメッセージを送ってから3分。こんなに早く返信が来るとは。

数分おきに時計を見ては返信するタイミングを窺っていた自分が馬鹿に思えた。意図的な駆け引きは、大抵無垢な真っ向勝負に勝てないものだ。

しかしここで早く返信すると向こうの思う壺である。

20分ほど時間を置いて返信した。


「ありがとう笑 誰か誘う?」


この戦いは誘っただけでは終わらない。2人で行くのか複数で行くのか。ここもこの戦いの大きなポイントとなる。


「どっちでもいいよ〜」


1分も経たない内に返信が来た。

しかも、どっちでもいいというこの世で一番困るフレーズ。


「じゃあとりあえず先に日付決めちゃってその日誰か来れそうだったら誘ってみる?」

「うん、そうしよ!」


完璧だ。完璧な流れだ。

彼女も僕と同じようにベッドの上でメッセージを入力しているのだろうか。

そう考えるとなんだか興奮する。冷静に考えれば、彼女の家は僕の家から歩いて行ける範囲にあるのだから、直接会って話した方が早いのではないか。今から会いに行ってしまおうか。

おっと、チェリーボーイのいけないところが出ている。ちょっと上手く行くとすぐ調子に乗って空回りする。こういう時こそ謙虚になることが必要だ。


「いつにする?来週の月曜とかはどう?」

「学校帰りってことだよね?大丈夫だよ!じゃあももちゃん空いてるか聞いてみるね。」

「おけい!」


ももちゃんとは村山さんと仲の良い小池ももさんのことだ。

僕も何回か話したことがあり、とても良い子だがそれとこれとは話が別。

頼む、ももちゃん。月曜だけは他の予定を入れておいてくれ。


「ももちゃんその日バイトだから無理だって〜」


10分後、村山さんから歓喜の通知が届いた。


「そっかー。残念だけど仕方ないね」


にやにやしながらそう返信した。

僕は最低な男だ。これっぽっちも残念だなんて思っていない。本当はももちゃんナイス!と思っているくせにこんな言葉をすらすら吐ける自分に嫌気がさす。


「だね。じゃあ学校帰りどっかで集合して地元で飲む感じの方がいいよね?どうせ家近いし」

「うんそうしよ!」

「はーい。じゃあ、また月曜日!」


僕から誘ったのに、結局村山さんが主導権を握ってくれた。

というか、全てが上手く行きすぎて怖い。

今はこんなに自信満々だけど、初っ端から2人きりで大丈夫か?うまく話せるか?これで盛り上がらなかったら次はないよな、、。

20年間治らないネガティブがまた発症している。もう治る気配もないから諦めているが、さすがに発症の頻度が多すぎて嫌になる。


なにはともあれ、村山さんと遊びに行くことが決まった。

高校3年間女子とまともに関わらなかった僕にとって、これは大きな一歩だ。

今日は金曜日。月曜まであと二日間ある。

皆にアドバイスを貰いながら良い準備をしよう。


村山さんのメッセージにハートを押したあと、いつの間にか寝落ちしていた。

そして、夢に村山さんが出てきた。

あまり覚えていないけど、幸せな夢だったような気がする。

早く月曜日になれと願っている自分がいる。

未来に楽しみがあるなんて何年ぶりのことだろう。

やっぱり、恋には入学式も予告編もないみたいだ。

知らぬ間に渦中に飲み込まれ、一度入ったらなかなか抜け出せない。





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