第9話
ブっと携帯が一瞬震えた。
自分の部屋のベッドの上で寝転んでた僕はまさか、と思った。
時計を見ると、家に帰ってきてからまだ30分しか経っていなかった。
数分おきに携帯を開いてはため息をつくということを繰り返していたので、体内時計が狂っていたようだ。
裏返された携帯が数十センチ先に寝転んでいる。
あいつが全ての答えを知っている。
誰かからのLINEを知らせる通知、ニュースアプリの通知、ゲームの通知、メールの通知。
そして、Instagramの通知。さあどれだ。教えてくれ、俺のスマホ。
ゆっくりと手を伸ばす。指先が震えていた。
緊張の身震いか、武者震いか。
撫でるように優しく触り、コイントスをするかのように天井にむけて携帯を投げる。
くるくると携帯が宙を舞う。綺麗な四回転アクセルを決め、ボフッと音を立ててふかふかのスケートリンクに着地した。
ゆっくり、ゆっくりと、表になった携帯を覗き込む。
ホームボタンを押し、液晶画面が光った。
「リホさんがあなたのストーリーズに反応しました」
「うっ、、、、!」
よがるような情けない声が出た。
嬉しい時や喜んだ時に「よっしゃー!」と大声をあげるのは漫画やアニメの世界だけだ。本当の喜びや幸せは、そんな短い言葉で表現できるようなものではない。もっと繊細で、曖昧で、心細い。
とにもかくにも、村山さんから反応が来ていたのだ。
すぐにDMを送ろうとする自分の衝動を必死に抑えて、LINEを開く。
専門学校五人組のグループラインで「村山さんから反応きたああ」と報告した。
光の速さで皆から、おめでとう!誘え誘え!ほらな言っただろ?協力費で今度は飲み物奢って!と返信が来た。なんでこんなに皆良いやつなのだろう。良い人かどうかの判断基準って、他人の幸せを喜べる人間かどうかにかかっているのではないだろうか。ちなみに僕は全然良い人ではない。
高原がLINEでくれたアドバイスに則り、反応がきてから少し時間を空けてDMで誘うことにした。その間にそわそわしながら母親の作ったハンバーグを食べた。
こんなに美味しいハンバーグを食べたのは久しぶりだ。
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