第8話

自分の意思なのか周りに流されたのかは分からないが、飲み放題2時間1000円の格安居酒屋で「村山さんをデートに誘う大作戦」が始まった。


「里穂ちゃんお酒好きらしいし、シンプルに今度飲み行こって言うのが一番いいと思うけど、優歌それはきついっしょ?」

入学してからの一ヶ月間で僕の臆病さはこの4人にバレてしまっている。

「まあそんなこと言う度胸あったらとっくに童貞卒業してるわ」

僕がそう言うと元田が吹き出す。余談だが、元田も生粋の童貞である。

「んー、俺がよく使ってたのはインスタのストーリーかなあ」

「ストーリー?ストーリーでどうやって誘うんだよ」

高原の作戦に食い気味で質問してしまうぐらいには、僕は村山さんの事が気になっているのかもしれない。

「里穂ちゃんのインスタは持ってるよね?」

 首を縦に振る。

「インスタのストーリーで親しい友達ってあるでしょ?自分が選んだ人にだけ投稿を公開できるやつ。あれを使うんだよ。

その気になってる子だけを親しい友達に追加してストーリーを投稿する。例えば優歌だったら、里穂ちゃんだけを親しい友達に追加する。その後に適当に『飲み誘ってもいい人このストーリーに反応くださーい』みたいな投稿をすると。

そうするとそのストーリーを見れてるのは里穂ちゃんだけになる。里穂ちゃんはまさか自分だけが親しい友達に入れられてるとは思わないだろうけどね。

んで、里穂ちゃんがそのストーリーに反応してきたらもう飲み行ける確定でしょ?反応きたらそのままDMで誘って約束しちゃえばいい。理解できた?」


高原の作戦に僕を含む4人は舌を巻いた。元田が唐突に立ち上がり拍手をする。中川、吉田、僕も続く。

居酒屋でスタンディングオベーションをした人類は僕たちが最初で最後だろう。

すげえー!さすがヤリチン!と3人は盛り上がっていたが、僕は盛り上がるというより、静かに興奮していた。

村山さんと、飲みにいけちゃうかもしれない。

なんて作戦だ。高原という男は、なんて天才なんだ。

「高原先生、ありがとうございます。その案、採用させていただきます」

僕は恋愛マスター高原に感謝を告げ、早速携帯を開いた。

インスタグラムを開き、親しい友達に「リホ」を追加。

ストーリーにて「飲み行きたいです、一緒に行ってもいいよっていう人は反応くれたら嬉しいです。誘います」

高原の提案を一言一句変えずに投稿した。

他の誰でもなく、村山里穂に向けての言葉だった。


「でも反応くるかな?ここまでやって反応来なかったら虚しいんだけど」

さっきまでの自信と勢いは雲散霧消し、いざ投稿してみたら不安だけが残った。

「大丈夫大丈夫。まあ気長に待てや」

皆の好きな人で盛り上がるはずだったのに、結局ほとんどの時間を僕に費やしてしまった。申し訳ない。

作戦提案費として高原に飲み代を奢り、僕たちは解散した。

「がんばれよ。結果分かったら教えて」

専門学校に入ってから、自分は人に恵まれているのかもしれないと感じ始めている。


家に帰るまでの電車の中で、5分おきにインスタグラムを確認していた。

村山さんが好きなのかどうか、自分でも正直よく分からない。

いや、好きではあると思う。だけど胸を張って好きというための根拠が足りていない気がする。挨拶されたから好きなんて客観的に見ればちょろすぎるし、学校で話しているだけなのに好きなんて言う自分がすごく軽薄に見える。

だけど、彼女と学校で話す時間が好きだし、もっと話したい。知りたいことがたくさんある。

彼女が他の男とキスしている姿を想像すると、嫌悪感で胃液がこみ上げてくる。


その人が他の異性とキスしている姿を想像した時に、ゲロを吐きそうになるかならないか。

恋愛なんてほとんど未経験だし、難しいことなんてよく分からないけど、好きかどうかの判断なんて、そんなちっぽけなものでいいのかもしれない。



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