第5話
「はい、30秒しゅうりょーう!皆2人1組できたね?じゃあ早速自己紹介始めようか。5分間、沈黙作るなよ〜。はいスタート!」
2人1組を作れた喜びに浸る間もなく、担任がまた悪魔のゴングを鳴らした。
今日はすべてにおいて展開が早すぎる。
地獄の5分間が始まった。
さすがにこういう時は男から話し始めなければならない。
自分から話題を提供し、会話の主導権を握るのだ。
人生で重要なのはいつだって先制攻撃。
深呼吸をして思いっきり口を開く。
「じゃあ、僕から自己紹介します。
…えっと、くりはらゆうたって言います。やさしいにうたで、優歌、、。
珍しい名前ってよく言われます。趣味は本を読むことと音楽を聴くこと。
出身地は神奈川県の、まあ言っても分からないと思うけど春久井市っていう…」
そこまで言ったところで、それまでうんうんと頷きながら僕の話を聞いてくれていた彼女は瞳孔を大きく開き、口を挟んだ。
「えっ!?春久井なの?私も春久井!」
「え、まじで?」
初対面なのに、驚きのあまりすっとんきょうな相槌を打ってしまった。
「まじまじ。がっつり春久井だよ。有川中学校って分かる?」
驚いた。有川中は僕の隣の学区の中学校だ。
「え、分かるよ分かる。だって僕桐生中だし」
あまりにも急すぎるかつ驚きの展開に、僕は少し興奮していた。
「桐生なの?めちゃ近いじゃん!
桐生かあ〜。あっ、角谷はるき分かる?桐生だったよね?幼稚園の幼なじみで今も仲良いんだけど」
耳馴染みのあるその名前が彼女の口から出てきて、僕はさらに驚いた。
「分かる!
分かるっていうか、もはや親友っていうか、、。
小学校から一緒だったし先週遊んだばっかだよ。今もめちゃ仲良い」
僕以上に、彼女がこの展開に驚いているようだった。
初対面のとは思えない距離感に、つい心臓が強く脈打ってしまう。
「えーほんと!まさか専門学校でこんな近い人と会うとは思わなかった。
びっくりだね。はるきとも仲良いなんてさらにびっくり」
そう言って彼女は笑った。
久しぶりにこんな近距離で女性の笑顔を見た気がする。
眩しくて、直視できなかった。
「あ、ごめん。名前言ってなかったよね。
むらやまりほです。
里に稲穂の穂で里穂。
趣味はドラマを見ることと、音楽を聴くこととカメラで写真を撮ること。
…出身地は、まあ言っても分からないと思うけど春久井っていうところで、有川中学校出身です!」
おどけながらそう言った彼女を見て、どうして2人1組を作るのにあれだけ時間がかかったのだろうと疑問に思った。
社交的だし、明るいからすぐに色々な人に声をかけそうなのに。
地元が一緒な僕にだからこんなに話してくれたのかもなと、女性への免疫がない者特有の淡い期待を膨らませている自分に気がついて恥ずかしくなった。
それから、彼女と色々な話をした。
僕の家から彼女の家まで歩いて15分ぐらいしか離れていないということ。
彼女はバンドが大好きで、中でもELLLEGARDENが一番好きだということ。
一眼レフを持っていること。中学はソフトテニス部で高校は帰宅部だということ。
「はい、5分間終了!挨拶だけして次のペア組んでね〜」
本当はもっと色々聞きたかったけど、担任が悪魔のホイッスルを鳴らしてしまったからには仕方がない。
「あっ、じゃあこれからよろしくお願いします。
人見知りで誰にも声かけれなかったから誘ってくれて嬉しかった。ありがとう。」
「いや、こちらこそ。2年間よろしくおねがいします」
余所余所しい挨拶を交わして、僕らは次のペアを探した。
1人目の彼女と思いの外盛り上がれたからか、さっきまでの自分が嘘みたいに、僕は自分から声をかけてあっという間に次のペアを作った。
千葉県出身ジャニーズオタクの本村みかんさんと自己紹介をし合っている時、チラッと彼女、村山さんの方をさりげなく見た。
赤髪の男と、楽しそうに自己紹介をしていた。
なにが人見知りだ。何が声をかけれないだ。ちゃっかり盛り上がっているじゃないか。
今日初めて出会った人間に対して独占欲を抱いている自分の浅ましさに、嫌気がした。
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