第2話
今年に入ってから大流行している新型コロナウィルスの影響を例外なく僕もくらいまくっていた。
高校卒業後、専門学校への進学を決めたがコロナの影響で休校となり、4月に予定していた入学式が6月に延期された。
1日でも早く入学したいという訳でもなかったのでストレスは特になかったが、2ヶ月間家にこもり続け、何もやることがないのがとにかく苦痛だった。
そして迎えた今日。専門学校初日。
夢といった夢もなく、大学に行くほどの学力も無い。
かといってまだ働きたくもない僕の進路は専門学校一択だった。
高校で配られたパンフレットを見た時に、(好きを仕事に!憧れのライブ・イベントに携わる近道!)と書いてあって、なんとなく楽しそうだなと思いこの学校に決めた。
僕は人生においてフィーリングや直感や予感をとても大切にしている。オープンキャンパスはこの学校以外行っていない。
「つぎは蒲田、蒲田。まもなく蒲田に到着いたします」駅員の覇気のない声が車内に流れ出し、僕はそれまで読んでいた文庫本を閉じ、バッグに仕舞った。
ドアが開くと同時に乗客が一気に吐き出されていく。
僕も人混みに紛れて電車を降りる。面接を受けた時以来に来た駅。これから2年間通うことになる場所。
筆記用具とメモ帳と文庫本しか入っていないスカスカのバッグの中に幾許かの期待感と不安を詰め込んで、学校へと向かう。
道中にあったファミレスに牛丼屋にコンビニ。
どこにでもあるはずなのに、今の僕には目に映る景色全てが新鮮に見えた。
「入学式に参加される方はこのまま真っ直ぐお進みくださーい!」
案内の看板を持ったスタッフに促されるまま体育館に足を踏み入れる。
開演30分前に着いたにも関わらず、会場には既に多くの新入生で賑わっていた。
流石は専門学校。体育館の大きさも設備の綺麗さも人の多さも高校とはまるで違う。まだ何も学んでいないのに既にこの学校で何かを成し遂げたかのような気持ちになってしまう雰囲気。
自分の席に座りながら、辺りを見回す。
金、金、茶、赤、黒、茶、緑、黒。
春休みに染めたのであろう、どこを見渡しても鮮やかな髪色の人間しか目に入らない。(と思っている自分も先週ちゃっかり髪を染めたのだが)
大学生も専門学生も、アイデンティティの確立に必死だ。
髪色で、服装で、言動で他者に個性や自分という存在を必死に表現する。
お互いがお互いを「お前らとは違う」と見下しあっているように見える。
中学生や高校生の時だってそうだった。制服を着崩し、髪の毛をバレない程度に染め、飲んではいけないお酒を飲むことによって「みんなと違う」感覚を楽しみたがる。そして数年経ったあとに「中学生らしくない、高校生らしくない事をしようとする事こそが中学生らしさであり、高校生らしさである」ということに気付き、数年前の自分の青さに顔を赤らめる。大人になるとは、黒歴史を塗り替え続けることなのかもしれない。
僕は違う。個性を出すために髪の毛を染めたわけではなく、ただ染めてみたかったから自己満足のために染めたのだ。
と誰も聞いてもいないのに心の中で弁解したが、その自意識の高さでさえも「学生らしさ」なのかもしれないと思い始め、思考の螺旋階段に彷徨った。
「それではただいまより、2020年入学式を始めます」僕のくだらない思考を遮るかのように司会者が口を開き、入学式が始まった。
校長の言葉、新入生代表の言葉、これからの学生生活について、夢、目標、希望。どこかで聞いたような言葉がひたすらに飛び交っていた。ほとんど聞き流していた。こういう時は真面目に聞くのがダサくて、適当に聞いているのがかっこいいというような思春期特有の痛々しい思考回路がまだ残っているのかもしれない。
よくないよくない。専門学校では真っ直ぐ、気張らずに素直に生きて行くと決めたのだ。
約2時間ほどで式は終了した。今日は式が終わり次第解散。
明日からクラスごとに分かれ、オリエンテーションが始まる。
入学式だけだったが、初日ということもあり気張っていたのだろう。帰宅した瞬間に疲労感と睡魔がどっと襲ってきた。
明日からが実質本番。期待半分不安半分。
これから先どんな2年間になるのか、この時の僕は当然何も知らない。
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