あの時

ごさときりなか

第1話

700円の牛丼を無心で流し込みながらテレビを眺めていると、音楽番組でアイドルグループが踊っていた。

最近出た楽曲らしい。画面の右上にデカデカと「最年少16歳センター」と書いてあった。

自分の7歳下。近頃、世間で活躍している人間が大体自分よりも歳下で嫌になる。自分よりはるかに歳下の人間が活躍しているのを見て、消えたくなる。

劣等感で押しつぶされそうになる。同世代や下の代が頑張っている姿を見て勇気を貰えるとか元気が出るとかよく言うけど、そんなこと全く思わない。

そういう事を言ってる奴らはバカだとさえ思う。劣等感も焦燥も感じない、呑気な奴らだと思う。

センターの彼女を見ながら16歳の頃の自分を振り返るが、特に何も思い出せなかった。多分何もしていなかったと思う。むしろアイドルを追っかけいてた側だと思う。

22歳男性にとって、みずみずしい10代だらけのアイドルグループは眩しすぎた。急いでチャンネルを変える。


僕の幼少時代から放送されているドキュメンタリー番組だった。

「芥川賞作家 小説界の風雲児 花咲 優」

今話題の小説家だ。去年20歳で芥川賞を受賞した彼の執筆する様子が放送されていた。自分より3歳下。16歳のアイドルよりはましだけど、キツい。この人の小説読んだことあるし。めちゃくちゃ面白かったし。20歳なんて信じられないし。

本来自分の気持ちを高めるはずのドキュメンタリー番組なのに、このままこの放送を見続けたら逆に精神が壊れそうだ。

再びチャンネルを変える。


続いて目に入ったのはドラマ。

どうやら今日が1話らしい。丁度良かった。

久しぶりにドラマを1話から通しで見てみようか。最後に見たドラマってなんだったっけ?などと考えている内に次々とシーンは変わり、ある女優が僕の目に飛び込んできた。


「あっ、、、」


思わず声が出た。1秒後、一気に部屋に静寂が訪れる。反射的にテレビの電源を切っていた。

考えるよりも先に身体が動いていたようだ。

鼓動が早まっていくのが自分で分かる。全身の血液が一気に駆け巡る。

深く息を吸って、吐いて、また吸って、吐いて。再びテレビの電源を付けた。1分前に見ていたドラマの続きが映し出される。

「ああ、そうか、、」

・毎週金曜21時から日本テレビ

メモ用紙にそう走り書きして、余った牛丼を再び流し込む。


「まだ好きなんです、私」


その女優がドラマの中で放ったセリフが、独り言のように僕の部屋に虚しく響いていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る