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〈ミア視点〉
私の目に当てられている手をパッと払い除けて
顔を後ろに向けると
あの金髪の髪が見えた
「・・・れん」
名前を呼ぼうとすると
唇にスッと蓮君の人差し指が当てられ
「着いて来て」と小さな声で囁くと
足音を消して更に奥の方へと歩いていった
どうして
不思議に思いながら私も足音を消して彼の後を追い
「入りなよ」と開けられた襖の部屋は
一度も立ち入った事のない知らない部屋だった…
( まぁ…ほとんどが知らない部屋だけれど… )
初めて足を踏み入れる部屋に少し緊張をしていると
急に視界いっぱいに見える蓮君の顔に
「えっ」と驚いて足を後ろに下げた
レン「・・・やっぱり泣いてないんだね?」
蓮君の少し笑いの混ざった問いかけに
「やっぱり?」と眉を寄せて
楽しそうに笑う蓮君を見上げていると
「だって美亜愛してないんでしょ?」と
更に口の端を上げている蓮君の顔が見えた
「・・・へ?」
レン「
不思議と蓮君から言われた言葉に
驚く事も「そんな事ない」と怒る感情もなかった…
( ・・・あい? )
なぜ翠さんと結婚したのか…
いつも私の中に回る答えは「いい人」だけで…
ラブストーリーの主人公達の様に
「彼を愛しているの」なんて…
そんな愛のある言葉は出て来た事はなかったから…
レン「普通はさ…結婚って…
愛し合ってる者同士がするんだよ」
「・・・・・・」
レン「
蓮君はさっきから楽しそうに笑ったままで…
何も答えない私に背を向けると
艶っと光る木の衣装棚から服を取り出し
「この雨の中外にいたの?」と
私に白いTシャツを差し出した
「・・・アメリカに帰ったんじゃ…」
服を受けとらずに
ずっと喉で止まっていた疑問を投げかけると
蓮君は小さく笑って
「残念?」と問いかけてきた
「・・・・・・」
レン「俺がアメリカに帰ってなくて残念?」
「それとも…」と声を小さくし
私の耳元に顔を寄せて「嬉しい?」と
囁く蓮君にカッと顔が熱くなり
蓮君の胸元を手で押して距離をとった
レン「・・・・・・」
また…
自分の身体中からダメだと声がする…
さっきは無視をして襖に手を伸ばしたけれど
今…この声を無視すれば…ワタシは…
レン「言ったでしょ?
蓮君の目は…不思議だ…
子供みたいにニーッと細めて笑ったり
目をパチパチとさせてあどけなさをみせたり…
レン「
私の頬に手を伸ばしてそう言う蓮君の目は
ただただ…綺麗で…怖くて…
ハッキリとした彫刻の様な顔がより一層
男を感じさせていて息をするのも忘れてしまいそうだ…
レン「この家には秘密しかないんだよ」
「ひ…みつ…」
私がさっき襖からみた光景は…
決して…普通ではありえない光景だった…
「・・・あっ…あなた…たち…キョウダイは…」
レン「・・・・・・」
「・・・だって…血が…」
そう口にした瞬間
なぜ…私が彼から選ばれたのかが分かった…
私が彼に対して「いい人」という感情止まりと同じ様に
翠さんからも深い愛情を感じ取った事はなかった…
彼の〝愛〟は…
きっと…
「・・・普通…じゃない…」
蓮君の顔を見つめながら
そう発した唇は小さく震えていた
レン「だからどうしてココにいるのって聞いたじゃん」
「・・・・わたし…は…彼の…」
私は…翠さんの…
妻なんかじゃなく…
「・・・家政婦?」
レン「・・・・・・」
何も答えない蓮君のその態度が答えなんだと分かり
「はぁッ…」笑の混じったタメ息が漏れた瞬間
目からも涙が溢れ落ちた
ある程度の家柄の奥さんだったら
家事をする程度だし…
頻繁に本家へと行って
香りをつけて帰るわけにはいかないだろう…
( 奥の間に遠さないわけにも… )
彼が私を選んだ理由は
愛していたわけでもなく…
「いい人」だったんだ…
「都合の……いい…ヒト…」
信じられない現実に
膝を曲げて座り込み
「ハァハァ…」と乱れた息を必死に整え
うまく息が吸えないままの私に
「別れる?」と普通に問いかけてくる蓮君に
キッと睨む様な目を向けたけれど…
レン「・・・・・・」
( この子が悪いわけじゃない… )
蓮君が言う様に
愛してもいない相手と結婚をしてしまった自分が悪い…
そして…
この五十嵐家からそう簡単に離れられない事だって…
ちゃんと分かっている…
世間体を気にするこの家が
離縁を許してくれるわけもく…
さっき見た光景を口にしても
泥の中であるこの家が首を縦に振るはずがない…
睨んでいた筈の目からは
またドンドンと涙が溢れ出て来ていて
終わりのない…
あの家政婦の一生を過ごすのかと目を閉じた
( この…泥の沼からは抜け出せない… )
レン「・・・美亜も…この泥に足を沈める?」
「・・・・へ…」
もう既に泥の中にいる私に
何を言っているんだろうと
目を開けて蓮君の顔をそっと見上げると
雨に濡れて寒さも感じている頬に
温かい感触がして
蓮君の両手が優しく添えられているのが分かった
「・・・しず…める?」
レン「そう…美亜はまだ泥の中にいるだけだけど
この五十嵐家の泥に足を沈めてみる?」
蓮君の指が私の下唇を優しく撫でだし
彼の言う…足を沈めるの意味を理解した…
彼と私は血が繋がっていないけれど
戸籍上では義理のキョウダイだ…
その関係である私達が男女の関係になるなんて
あってはならない事だし…
決して首を縦には振ってはいけない…
「・・・・・・」
だけど…
翠さんは今…この時も…
そのあってはならない関係をしている…
ミドリ「妹の
恥ずかしがり屋だから許してやってくれ」
挨拶をした時に
顔をそらされてしまい
何か悪い事をしたのかと気にしていたけれど…
ニッコリと微笑む事が出来なかったんだろう…
自分の兄と…
愛している人と結婚をする私が憎かった筈だ…
レン「美亜には…1番の秘密をあげるよ…」
そう言って顔を近づけてくる蓮君に
瞼をそっと閉じた…
( きっと…この泥からは逃げられない… )
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