秘密

〈ミア視点〉









ミドリ「じゃあ行って来るよ」






「はい」






いつもの様に

奥の間へと歩いて行く翠さんの背中を見つめながら

「行ってらっしゃいませ」と小さく呟き

今にも降り出しそうな雨雲達に顔を向けた







「・・・あめ…」







雨の季節は終わり…

暑いアツイ夏も終わりを迎えようとしているこの時期に

最後の夏の名残かの様に

台風が近づいていた






( ・・・・・・ )






雨風が強くなるのは明日の明け方からだと

朝の天気予報で言っていたから

まだ大丈夫だろうと思い

あの…蓮の池へと歩いていった






「・・・特等席…」






蓮君がよく座っていた窪みを眺めていると

ポツポツ…ポツと大きな雨音が響きだし

音のする蓮の池へと顔を向けると

水面に沢山の輪が広がっていて

一歩後ろへと下がり

彼の言う特等席へと腰を下ろしてみた






レン「二つの木が守ってくれてるから」







蓮君の言う通り私の上に雨が落ちて来る事はなく

窪みに座ったまましばらく池を眺め続けていると

風に靡いた雫が霧の様にかかってきだし

台風の影響が早まっているのかなと不安になりだし

翠さんと別れた場所に走って戻って行くと

奥の間ではない中庭の奥にある通りを歩く翠さんの背中を見つけ

もう終わったのだろうかと思い後を追った






〝行くな〟と自分の中から声が聞こえたけれど

私は足を止めなかった…






( ・・・私の…ただの勘違いなら… )






歩く速度を落として翠さんが入って行った

部屋の襖を見ながら「ふぅー」と

胸に手を当てて息を吐き出した






きっとお茶をたててるだけだ…

生徒さんや…お手伝いさんと

この部屋に二人でいたとしても不思議ではない…






まるで言い聞かせるかの様に

そう胸の中で言いながら一歩一歩足を進めた






襖の少し前にきても

話声などは何も聞こえず

一人で休んでるのかと思い

更に一歩踏み出し耳を襖に寄せると

甘い吐息の様なものが聞こえてきた…







( ・・・オンナの…ひと… )






明らかに翠さんではないその声に

ゴクリと唾を飲み込み

ダメだと身体中が言っているのに

私の手は端へと伸びていき

少し…ほんの少しだけ襖を開けて中を覗いていた






「・・・ッ…」






思わず声をあげそうになりパッと

自分の口元に手を当てて

襖のほんの隙間から見えた顔をもう一度確認しようと

顔を近づけた瞬間私の視界は一気に暗くなり

「ダメだよ」と…

あの掠れた独特な声に耳に聞こえた…











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