テレビ

〈ミア視点〉









【 最初は…まさかって…思って…

  でも夫との夜の生活がなくなったのは…

  イマッ……思えば…その位から…ッ…で… 】







つけっぱなしのテレビから聞こえてきた言葉に

思わず掃除をしていた手をとめて

顔をテレビへと向けると

顔にモザイクのかかった女性がハンカチらしきものを

目元付近に当てて泣いている姿が映っていた






「・・・不倫…とく…しゅう…」






画面の右上に書かれている文字を口にして

これがどう言う内容の番組なのかが分かり…





1度は顔を背けてまた棚の上を拭き出したけれど

耳に聞こえ続ける女性の声が気になって

布巾を棚に置いたまま体ごとテレビへと向け

一歩ずつテレビへと近づいている自分がいた







【 いつも…残業…ザンギョウって…

  帰りも遅くなりだして…ッ…

  ある日……甘い香りを漂わせて帰ってきて…】







「・・・・甘い…香り…」







気がつけば

テレビの中の女性の言葉を

確認するかのように真似て呟いていて

頭の中にはある映像も蘇っていた…






水餃子の生地を作り終え

翠さんの着替えを出しておこうと脱衣室へと入り

ふと洗濯籠からはみでている服に目を止めた私は

腰を曲げて綺麗に籠に入れ直そうと手を伸ばした






( ・・・おこう? )






フワッと微かに品のある香りが鼻をかすめ

奥の間の香りなのかなと思い

特別気にする事もなく服を畳んで籠にしまったけれど…






翠さんは本家を訪れた日だけ…

一人でお風呂で入るようになり…






私とのそう言った行為は

ずっと…ないままだった…






カレンダーへと顔を向けると

季節を表す向日葵ひまわりの絵があり

その8月もあと少しで終わりを迎える…






「・・・・れ…」







蓮君は今頃たんぽぽの様に

自由にアメリカで生活しているのかなと思い

思わず名前を口にしてしまいそうになった自分に

「はぁ…」と息を吐く様なタメ息を溢し

目線を足元に写る綺麗なフローリングへと落とした






友「うちは共働きしなきゃやっていけないし…

  はぁー美亜になりたい…」







( 私になりたい? )







皆んなが言う幸せとはなんなんだろうと思いながら

ジッと足元を見つめ続けていると…







レン「地に足をつけてどっしりと…

  凛と美しく生きて欲しいって事ね…」







あの日の蓮君の言葉が聞こえてきて

視界が少しだけ揺れた…





五十嵐家の中に足をつける地面はなく

胸を張って立てる事はない…






皆んなが幸せだと言う

現状に満足出来ていない私がおかしいのか







レン「美亜は今…幸せ?」







私の立っているこのフローリングはきっと

蓮君の言う泥の世界なのだろう…








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