梅雨…

〈ミア視点〉










ミドリ「ここにいたのかい?」






翠さんの声にハッとして顔を上げると

ザァーッと降り注ぐ雨音が耳に聞こえ出し

今降り始めたばかりではない雨たちは

地面に大きな水溜まりを幾つも作っていた





どれくらい時が経っていたんだろうと思いながらも

翠さんの前で時間を確認する素振りを見せるわけにもいかず

「お疲れ様です」と言って翠さんの側へと歩いていく





雨空は時間の間隔が分からなくなる…

時刻を知らせてくれる太陽は隠れていて

今が15時なのか16時なのかも分からない…





( 今日は1時間半くらいかな… )






いつも奥の間へと行った翠さんは

1時間から2時間近くは戻らない…





ミドリ「今日の夕食は軽めでいい」





「では麺にしましょうか?」





ミドリ「いや…水餃子でいい」






帰ってから作り出して…

6時位には食べれるかなと考えながら

「分かりました」と頷き

翠さんと一緒に門をくぐっていった






ミドリ「このジメジメと鬱陶しい天気もあと少しだ」






「・・・・そう…ですね…」






この雨の季節が終われば…

蓮君はアメリカに戻ってしまう…






( ・・・それでいい… )






あの蓮の池に行かなければ

元々…会う事はなかったのだから…





彼は五十嵐家から出たがっているし

兄の結婚式にも帰国しなかったくらいだ…





だから…

彼と次に会うのは

数年後か…もっと先だろう…







マンションへと帰り着き

直ぐに水餃子の準備をしようと

キッチンへと向かおうとした足をピタリと止めて

「先にお風呂にしますか?」と翠さんに尋ねた






エアコンとは違った

ザーッと鈍い音がこの部屋の中にいても聞こえる程に

降り注ぐ雨の勢いは強く

いつもの翠さんなら「ベタベタとして気持ち悪い」と言って

先に身体を洗いたがるから






ミドリ「あぁ…そうするよ」







翠さんの返答を聞いて

一緒に脱衣室へと行こうとすると

「今日はいいよ」とスッと手を伸ばして言われ

「後で着替えだけ出しててくれ」と

一人で廊下の方へと消えて行く翠さんの背中に

ホッとしている自分がいた反面…






「・・・早く作らなきゃ…」







キッチンへと行き

冷蔵庫から必要な食材を取り出しながら

少しだけ手が寂しさを感じていた






いつもはこんな風に

寂しさや寒さを感じたりはしない…






だけど今日は…

翠さんに触れていたいと思っている自分がいる…







「・・・・今月は…ないのかな…」







交際期間の時から

翠さんはあまりそう言う事をする方ではなく…

結婚してからも月に1度ある程度だった







私自身もそんなに必要だとは感じていなかったし

全くないわけではなかったから

気に留めた事もなかったけど…







自分の中の蓋がカタカタと動きだしているのが分かり

作りかけていた水餃子の皮から手を離し

冷蔵庫の横にある小窓へと近づいていった







( ・・・・・・・ )








カフェカーテンをめくり

窓から見える暗い雨空を眺めながら

「早く夏になればいいのに」と小さく呟いた












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