幸せ…
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本格的な梅雨を迎えた
6月半ば過ぎには
蓮君と会った回数も片手を過ぎていて
話す会話も距離も近づいていた
レン「美亜のそれって癖だよね?」
蓮君は耳の裏側に指を当てながら
問いかけてきていて…
その表情は揶揄う様な生意気な顔をしている
「・・・子供の頃からの癖なのよ…
耳の後ろを触っていると…なんだか落ち着くから」
レン「ツボでもあるのかな?」
あまり分からないという表情を浮かべて
自分の耳後ろを触り続けている蓮君に
「蓮君の癖はないの?」と問いかけると
「んー」と目線を上へと上げて
シトシトと降り注ぐ雨を見ながら
「キスかな」と呟き…
「きっ…キス?」
腕を組むや
鼻先を触るなどの癖かと思っていたら
予想とは遥かに違う答えが返ってきて
思わず声が裏返ってしまった…
レン「癖っていうか…
美亜の言う落ち着くってやつならキスかな?」
「・・・そっ…そう…なんだ…」
蓮君の顔を見ていた筈なのに…
私の視線はいつの間にか
彼の唇へと向けられていて
またザワザワとする感情に落ち着かなくなっている…
レン「キスって気持ちいいし…
頭の中なんにも考えなくていいじゃん?」
「・・・・そう…」
そんなキスをした事はなく…
蓮君の言う落ち着くキスを全く想像出来ないでいると
突然耳後ろにピタッと何かが触れる感触がし
「ヒャッ」と驚いた声をあげた
「なっ…なに??」
レン「落ち着かせてあげようかと思って」
淡々と…
明日晴れだよとでも言うかの様に
目をパチパチをさせている蓮君に
「いや…いい…」と両手を前へと出して
拒否の体勢を示しても
「なんで」と言って
また私の耳へと手を伸ばして来て
ふにゃっと耳たぶを摘んできた…
「・・・ッ……」
レン「確か耳たぶって何かのツボがあったよね?」
変な知識は知っているのねと思いながら
膝の上にある自分の手をギュッと握りしめていると…
「肩に力入ってない?」と
高く上がっている私の肩に手を当てられた瞬間
ビクッと身体が揺れた…
レン「・・・・・・」
「・・・くっ…擽ったいよ…」
揶揄う事も「なに?」と驚く事もしない蓮君に
顔を向けれないまま
誤魔化す様な言葉を口にすると
「目…閉じてなよ」と小さな声が耳に届き
また、耳の後ろに蓮君の指の暖かさを感じた
( ・・・・変な感じだ… )
自分で触るのとは違って
胸の奥に妙な息苦しさを感じている筈なのに
なぜか…安心している自分がいて
そっと瞼を閉じると
「美亜はどうしてココにいるの?」
とまた問いかけられた…
前にも…
どうして泥で汚れた池の中に来たのかと問いかけられ…
私は…何も答えられなかった…
私が
それは、翠さんからと結婚したからだ…
だけど…
どうして結婚したのかと尋ねられたら…
「お母さん…私、結婚する事になった」
母「えぇ?付き合っている相手がいたの?」
「うん…たまたま出会って…
付き合ってて…昨日プロポーズされたの…」
私は…
翠さんを嫌いではないし…
好きだという感情もあった…
優しくて…
茶道の事や着物の事を教えてくれて…
「いい人だ」と感じ…
連絡先を聞かれた時も…
食事に誘われた時も…
いい人だ…と思った…
だから付き合った…
( ・・・だけど… )
それ以上の言葉が見つからない…
なぜ結婚したのかと問われても
「いい人だったから」と言う言葉しか出てこなくて…
レン「美亜は今…幸せ?」
「・・・・・・」
池に降り注ぐ雨音が強くなりだし
ピチャッと自分の頭にも大きな雫が落ちてきた…
いつもなら「そろそろ行くね」と立ち上がるのに
今の私は目を閉じ続けていて…
耳後ろにある温もりから離れられないまま
蓮君からの問いかけの答えを探していると
左耳の後ろにあった手が
ゆっくりと頬を伝って降りていき…
私の下唇を優しくそっと撫でた…
右…左と…
優しく摩られている自分の唇に
心地よさを感じ…
蓮君の言っていた
落ち着くと言う意味が
少しだけ分かった気がした瞬間パッと目を開けて
自分の唇の前にある蓮君の唇に手を当てた
「・・・・・・」
ザーッと煩く響く雨音だけが聞こえる中
蓮君の目を見つめて
「アメリカじゃ…ないんだよ…」と言うと
ジッと私の目を見つめ返しながら
「幸せ?」と…また問いかけてきた…
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