レン「あっ!持って来た?」








私の足音に気付き顔をコッチに向けて来た蓮君は

挨拶もそっちのけに

この前話したラッキョウは持って来たのかと

ニコニコとした笑顔で問いかけてきた







「・・・作ってないわよ…」






そう言って蓮君の前へと立ち…

いつもの席に座っている蓮君を見下ろしていると

窪みにシートが敷かれいる事に気付いた






レン「作ってって言ったのに…」






ブツブツと文句を言っている蓮君に

「それ」とシートを指差して言うと

「あぁ…」と小さく笑って






レン「朝まで雨だったし土も湿ってたからね」






「・・・来る事…知ってたの?」







確かに数日に1度のペースで

此処に来ているけれど…

なぜ今日来ると分かったんだろうと驚いた






レン「・・・うーん……なんとなく?笑」







「・・・・・・」







少し自分の中で何かが引っかかっていたけれど

考えるのが面倒になり

「座ってもいい?」と問いかけた





蓮君は「どうぞ」と言って

小さなシートの敷かれた隣りをポンポンと

軽く叩いていて

こんな所は翠さんと同じだなと思いながら

ゆっくりと腰を降ろした







「・・・蓮君の…子供の頃ってどんなだった?」







レン「ん?なにそれ??」







前回、蓮君が私に問いかけた質問を

蓮君に問いかけ直すと

「ん?」と首を傾けて

どう言う事と言う反応をしているから

「何して遊んでたの?」と聞き直した







レン「あーそう言う事!

  俺はね…覗いてたね…」







「のっ…覗きッ!?」








返ってきた言葉に驚いて…

少しだけ蓮君から離れながら

「それもアメリカンジョーク?」と問いかけた






レン「だいぶシュールなジョークだね…笑

  美亜が思ってるのとは多分違うよ

  俺が覗いていたのは塀の外だよ?」







「塀…の外?」







レン「平日は送迎付きの学校だし

  週末はお茶会とかで…

  ずっと閉じ込められてたからね…」






「・・・・・・」







翠さんから聞く

彼の幼少期の話は

初めて茶会に出た時の話や

エスカレーター式の名門校での生活だったけれど

蓮君の幼少期の話はやっぱり翠さんとは違い

同じ兄弟でこうも違うんだなと思った…







( 私の旦那さんとは正反対の蓮君… )







「・・・・・・」






何気なくポツリと感じた言葉だったけれど…

妙に胸の奥がザワザワと揺れだし

ダメだと…誰かが言っている気がする…






( ・・・だれ… )






自分の足元に目を向けたまま

煩く音を立てている

自分の心臓の音が落ち着くのを待っていると

「美亜」と蓮君の顔が視界の端に映り込み

思わず後ろに体を避けると

ズルっとお尻から体勢を崩し倒れそうになり






「えッ……あ…」






背中にグッと圧がかかり

蓮君の手が私の背中を抱きとめてくれていて

「あっ…ありがと…」とあの綺麗な顔を直視出来ずに

小さくお礼を伝えると

「ソファーみたいに背もたれはないからね」と

何故か楽しそうに笑っていた…





窪みに座り直し…

抱きしめていたバックが横に傾いているのが見え

「あっ!」と中身を心配すると

「なに?汚れた?」とまた顔を近づけてくる蓮君に

「何でもない」と言って

バックの中をそっと覗き

香りがしていない事に安堵していると

手にあったバックがパッと手元から消え

「へ?」と顔を蓮君に向けると

私のバックの中を覗いている







「れっ…蓮君ッ!」






レン「財布にハンカチに……ん?」







バックを取り返そうと手を伸ばしても

蓮君は私の方に背中を向けていて

ガサゴソとバックの中に手を入れ出し

「コレなに?」とジップロックに入っている

小さな包みを握っていた






レン「・・・ビニール?ん??」






ジップロックを初めて見たのか

プチプチと密封されている部分を開け出し

中からハンカチに包んだタッパを取り出し

「ん?」と中身を振って中に何が入っているのか

確認しているようだ…







「・・・美味しくないわよ…」







レン「食べ物なの?」








私の言葉を聞くと片手に握っていた

ジップロックをポイっと放り投げて

キツく結んでいたハンカチの結び目を解き

パカっとタッパの蓋を開けると

また「ん?」と首を傾けていた…






ラッキョウ自体を食べた事がないのか

タッパの中にある2つのラッキョウを見て

「種?」と呟いている…







「・・・それが…ラッキョウ…です…」







レン「・・・エッ!?」







蓮君は驚いた声をあげて

ラッキョウと私を交互に見ながら

「だって作ってないって」と言い

「え?」と何度も口にしている…







( ・・・・・・ )







翠さんは瓶の中身を溢していて…

洗い場に落ちていたラッキョウを片づけた後

瓶も洗ってからゴミに出そうと思い

逆さまになった瓶を持ち上げた瞬間

瓶の底に2つのラッキョウがコロンと転がってきて

甘酢も全部は流れ出ていなかったから

小さなタッパに移し替えて

ジップロックで密封した後

棚の奥に隠していた…







レン「コレがラッキョウ漬け?」






クンクンとタッパに鼻を近づけて

香りを嗅いでいる蓮君を見て

翠さんから言われたあの言葉を思い出し…

「臭いでしょ…無理しなくていいよ?」と言って

タッパに手を伸ばすと

「美亜、コレは俺の!」と…





まるで…つまみ食いをしている子供を

叱るかの様にペシっと手の甲を軽く叩かれ

「え…」と蓮君の横顔を見ると

ラッキョウを一粒手に取り口に放り込み

「ん!」と目を見開いた後

指先に付いている汁をチュパチュパと舐め出した






「・・・・・・」






何となく…

「どう?」とも…

「美味しい?」とも聞く事が出来なくて…




蓮君の横顔を黙って見つめていると

ゴクンっと彼の喉元が大きく動き

飲み込んだのが分かった






「・・・・・・」






なんて言われるのかが怖くて…

ドキドキと胸の苦しさを感じていると

パッとコッチを向いた蓮君の顔が

どんどん近づいて来て…







ちゅっ…






「・・・・へ…」







私の…頬に蓮君の唇が触れて

何が起こったのか一瞬思考が止まっていると…




蓮君は「thanks…Mia」と流暢な発音でお礼を言い

「甘くて美味しいね」と

残りの一粒を手に取ってまた口に放り込んでいる…








「・・・・ッ…」







キスをされた左頬に手を当てて

口をパクパクとさせていると

「美亜、おかわり」と甘えた顔を向けてきて

キスをした張本人である蓮君は

全く気にしていない様だった






蓮君は…

高校を卒業してから…

一年ちょっと…

ずっとアメリカにいたわけだから

お礼のキスとか普通なんだろうけど…







レン「今度はもっと沢山持ってきてよ!笑」







「蓮君ッ!」







日本はアメリカではないのだから

お礼のキスを簡単にしてはいけないと

長々とお説教をしても

「ねー…なんで2つなわけ?」と

全然聞いていなかった…







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