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お風呂から出て髪を乾かしていると
ガチャッと扉が開き
翠さんの顔が鏡に映り込んだのが見え
ドキッと嫌な感じがした…
ミドリ「ドライヤーを止めてコッチに来るんだ」
「・・・はい…」
カチッとドライヤーのスイッチを切り
翠さんの向かったキッチンへと行くと
フワッと鼻に香ってきた
独特の香りにまたドキッと心臓が嫌な音を立てた…
ミドリ「コレはどうしたんだい?」
「・・・・・・」
翠さんの手には
数日前に私がラッキョウを漬けた瓶があり
中身は殆ど入っていなかった…
ミドリ「こんなに強い香りのする物を
この家には置けないよ
もし僕の着物や持ち物に
この臭いが染み付いたらどうするんだい?」
「・・・すみません…」
自分の手を自分でギュッと握りしめながら
翠さんに謝ると「はぁ…」と重いタメ息が聞こえてきて
コッチに歩いて来ているのが分かった
翠さんは私の頬に両手を添えると
少し上へと上げて
私の視線を翠へと向けさせて…
ミドリ「もうあんな事はしなくていいんだよ?」
「・・・・・・」
ミドリ「美亜はこの僕に嫁いだんだから…
自由に暮らしたらいい」
ニッコリと微笑んでいる翠さんに
「はい…」としか言うことが出来ず…
私の返答に満足した彼は
「何も心配はいらないよ?」と言って
頬を優しく撫でると「先に寝るね」と
寝室の方へと行ってしまった…
「・・・片付け…なきゃ… 」
シンッとした部屋の中で
立ったまま動けないでいる自分の足へと
そう呟きヨタヨタと決して良くない足取りで
翠さんが立っていたキッチンへと歩いて行くと
ラッキョウとお酢の匂いがグンッと鼻を強く刺激して…
「・・・・・・」
シンクの洗い場に
沢山のラッキョウが転がっているのが見えた…
レン「婆ちゃんと何か作るとかいいじゃん」
蓮君は…
やっぱり…
ミドリ「もうあんな事はしなくていいんだよ?」
五十嵐家の人間には見えないよ…
翠さんとアナタは…
「・・・全然…違う…」
どこかで小さな期待をしていた…
翠さんが私の幼少期の話を聞いてこないのは
私に…気を遣ってなのかもしれないと…
レン「美亜のが食べたい」
蓮君と翠さんはあまり似てないけれど…
同じ家で生まれて…
同じ家で育った兄弟だから…
「作ってみました」と差し出したら
食べてくれるんじゃないのかと…
( ・・・そう思っていた… )
祖母「ずっと眺めていても
食べられるのは3日先だよ」
初めてお婆ちゃんとラッキョウを漬けたあの日…
楽しくて…嬉しくて…
ずっと瓶を眺めていた…
クッキーやホットケーキを作ったわけじゃない…
お菓子でもないし匂いだってキツイけれど…
コレは…
私が初めて作ったモノだったから…
落ちたラッキョウを手に拾い上げて
ビニール袋へと入れていきながら
蓮君と翠さん…二人の言った言葉が
何度も頭の中で聞こえていた
( ・・・似ても…似つかない… )
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