「少しは好きになれた?」






レン「んー…全然…」







汚い泥の中だと言った後から

蓮君は何も言わずに池を眺め続けていたから

そう問いかけてみると

「変化なしだよ」と笑っている






レン「美亜は?」






「え?」






レン「美亜は何の花が好き?」







好きな花なんて

子供の時以来考えた事がなく

改めて聞かれると

なんだろうと首を傾けた…





小さい頃は

カラフルで可愛いチューリップが好きだと言っていたが

あれは…絵本の中のチューリップで…






小学生となり

学校の花壇に咲いていた

本物のチューリップを見て

そんなに可愛くないなと感じたのを覚えている…





そして、女の子なら誰だって一度位は

「薔薇の花束をもらいたい」と口にするし…

実際に一度だけ貰った事があったが

それもまた…そんなに綺麗じゃないなと感じていた…







( 私の…好きな花… )







レン「俺はね、たんぽぽだね!」






いつまでも答えない私の返答は

もうどうでもいいのか…

蓮君は自分の話をしだしていた…








レン「自由に何処へでも飛んで行けて

  降り立った場所に根を生やして楽しんだら

  また自由に飛んでいけるし」







今までたんぽぽをそんな風に見た事はなかったけれど

蓮君の言葉を聞くと…

とても素敵な花に思えだし

キョロキョロと首を動かして

何処かに咲いているかなと探していると

「此処にはないよ」と言われた







レン「こんな場所には

  降り立ちたくないってさ…笑」






「・・・・・・」








確かに…

五十嵐家にたんぽぽは似合わない…





いくら素敵な花だと言っても

たんぽぽは雑草になる…





雑草を自由に育たせるほど

この五十嵐家の庭師は優しくないだろうから…

きっと…直ぐに抜き取られるだろう…







レン「毎日何してんの?」






「え?」







蓮君の話はくるくると変わるし

ポンっと急に問いかけてくるから

返答に戸惑う事が多いけれど

この問いかけは「普通よ」と答えていた









「極々普通の主婦業よ…」








レン「俺はそれが分からないから聞いてるんだよ

  普通の主婦って何するの?笑」







いくら浮ついて見えても

彼は五十嵐家の三男で

普通の専業主婦を知らないんだと思い

「朝起きて朝食作って…」と

私の普通を話して聞かせると…







レン「ふーん…それが普通なの…

  なんかウチの家政婦さん達みたいだね?」







家政婦という言葉に

蓮君には話していない部分が頭を過り

「そうかもね…」と耳の後ろを触りながら答えた







レン「美亜の普通には全然なりたくないけど…

  美亜の子供の頃にはなりたいよ」







「え?子供の頃?」







また訳の分からない事をと思いながら

隣の蓮君に顔をむけると







レン「だってそんな名前をつけてくれる両親なら

   絶対幸せじゃん?笑」







「・・・・・・」







レン「家族で遊園地とかに行ったりさ

  あっ!あと週末は川や海に行って

  バーベキューってヤツするんじゃないの?」








蓮君の想像している私の幼少期は

テレビドラマなんかに映る…

普通の家族の事を言っているんだと分かった







レン「お父さんが釣った魚を

  お母さんが料理したりするんだよね?」







( ・・・そっか… )







この五十嵐家では

毎週の様に週末はお茶会があり

家族で出掛けるなんてありえないから…






この子も…

普通の家族に憧れていたんだと思った…






そして、本当に…

私の事を何も知らないのだとも分かった








「うちは…母子家庭だったから…

 そんな週末は…なかったかな…」







レン「・・・えっ?」







「私の名前……名付けたのはお婆ちゃんなのよ」








そう…ウチは…

名のある名家でも…

裕福な家庭でもなく…







「生活がキツくて…

 田舎のお婆ちゃんの家によく預けられていたから

 週末に遊園地やキャンプに行った事は一度もないのよ…」







レン「・・・・・・」








蓮君は大きな目をパチパチとさせて

キョトンとした顔を浮かべていて…




鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは

こんな顔なんだろうなと思い

クスリと笑みを浮かべると







レン「いや…なに笑い出してんの…」







「ふふふ…いや…

 蓮君がなんか面白くてね…笑

 今キミはきっと、ヤバいこと言っちゃったとか

 焦ってるんだろうけど全然大丈夫だから」







レン「大丈夫?」







「確かに遊園地やキャンプには行った事がないから

 蓮君が期待している家族話はしてあげれないけど…

 田舎での毎日はソコソコ楽しかったから」







嘘でも見栄でもなかった…

テレビの中の家族に憧れた事は何度もあったけれど

泣いて暮らす様な毎日でもなかったから…







レン「・・・田舎…」







ボソリと呟く声に

気にさせちゃったかなと思い

「ん?」と顔を覗き込むと

少し照れた顔で「田舎ってどんな感じ?」と

問いかけてきた






この話は翠さんも知っているけれど…

「苦労したね」と優しく頭を撫でてきただけで

蓮君の様に田舎がどんな場所で…

どんな遊びをしていたのかなんて…

1度も聞かれた事はなかった…







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