池の中…









レン「あれ…また来たの?笑」







「・・・・邪魔なら…向こうに行く…」







また…翠さんと一緒に

五十嵐家へと訪れていて…





奥の間へと進められない私は

あの…特等席へと足を向けていた…







レン「邪魔じゃないけど…

  あっ!今日はそっちの話してよ」







「話?」







レン「だって俺、まだ名前も知らないよ?」







「・・・・・・」







招待状にも…

結婚の挨拶として送った贈り物にも…

私の名前は書かれていたのに…





義理の姉である私に

全く興味なんてなかったんだろう…








「美亜よ…」






レン「みあ?ん?どんな字書くの?」







自分の名前の由来を気にしていたから

私の名前の意味も知りたいんだろうと思い

派手な見た目とはえらいな違いだなと感じながら

蓮君の側へと行き人差し指で

〝美亜〟と土の上書いた







レン「美しい……何コレ?」






「・・・亜って…昔はこう書いていたのよ…」






レン「亞?」






「家とか建物の土台って意味らしいんだけど…」







私も…自分の名前の由来を人に話すのは苦手だった…

意味が嫌とかじゃなく…






( 自分で言うのは…少し擽ったい… )







「自分自身が傾いたり…流されたりしないよう

 しっかりと……立てみたいな……」







レン「・・・・・・・」







蓮君は何も言わないまま土の上を眺めていて…

何となく気まずさを感じた私は

「渋いでしょ?」と笑いながら

美亜と書かれた土の上を手でサッと消すと






レン「地に足をつけてどっしりと…

  凛と美しく生きて欲しいって事ね…」






「へっ…」






顔を少し上に向けて

窪みに座っている蓮君へと顔を向けると

膝の上に左肘を乗せたその手に

自分の顔を乗せて頬づえをついていて…






( ・・・キレイな顔だな… )






目を少し細めて優しく笑っている顔に

何も言えなくなり…

ぼーっと蓮君の顔を見上げていると

「座ったら?」と言って

また上の服を脱いで窪みの上へと置いてくれた







レン「毎回、毎回…

  そんな色のスカートなんか履いて来るんなら

  タオルとかハンカチとか持って来なよね?笑」







前回と違って

私の履いているスカートは白ではないけれど

淡いピンク色のスカートで…

湿った土の上に座れば汚れが目立ってしまう…





本当はバックの中に

ハンカチが2枚入っているけれど…







( ・・・汚すわけにはいけない… )






何かあった時に翠さんに渡せなくなるし…

私も…お手洗いなどに行った時に使うかもしれないし…






なんて…

そんな言い訳じみた事を頭の中に

並べ立てながら「ありがとう」と呟き

蓮君が敷いてくれた服の上へと腰を降ろした






「蓮君は…行かなくていいの?」






そう問いかけると「え?」と顔を私に向けて来たから

奥の間のある方を控えめに指差すと

顔をソッチへと向けた後

「あぁ…」と素っ気なく言葉を溢し

また顔を池の方へと向けた







レン「何かあれば誰かが呼びに来るよ」







「・・・・・・」







蓮君は…

他の五十嵐家の皆んなとは少し変わっている…







レン「ねぇ…美亜はさ…

  何でこんな家に来たの?」







突然の呼び捨てに一瞬驚いたけれど

蓮君はアメリカに行っていたわけだし

呼び捨てに慣れているのかなと思い

「何で?」と問いかけられた言葉を口にした








レン「きっと…名前の通りには生きられないよ」







「・・・・・・」







【 まさか美亜が茶道の奥様にね 】





【 いいなぁー!

  高い着物とか着て

  旦那さんの3歩後ろを歩くみたいな感じ? 】







友達は皆んな…

羨ましいと口を揃えて言っていて

お母さんも…






母「あんないい人…滅多にいないわよ?

  しっかり支えて大事にしなさい」

  





そう…言っていた…

翠さんみたいな人が私を選んでくれたのは奇跡だと…






皆んなが私の結婚は間違いなく幸せだと

そう…言うのに…







レン「この池ってさ…

  外から見ると綺麗なんだよね…手入れされてて…

  だけど少し下に潜ると…

  濁った泥の世界しかないんだよ…」







「・・・・・・」







レン「だから何で…

  こんな汚い世界に来たのかなって?」








( ・・・泥の中… )







なんとなく…

しっくりときた気がした…





地にしっかりと足をつけて立っている感覚はなく…

濁った泥水の中にいる気がしていたから…









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