家庭…









「・・・えっ…」






茶道教室の仕事を終えて帰って来たみどりさんから

明日も本家に顔を出すと言われ

熱いお茶を煎れていた手がピタリと止まった…







ミドリ「体調が悪いみたいでね…」







「・・・心配ですね…」









当主であるお義父さんに何かあれば

周りも騒ぎ出すだろうけれど…




五十嵐家の中でも…

荒波が立ちそうだなと思いながら出た一言で…





正直…

お義父さん自身の心配は何もしていなかった…





「お義父さん」と呼んではいても

特に近しい何かを感じた事はないし

向こうもそうだと言う事は分かっている…






( ・・・冷たい…のかな… )






そんな事を考えながらお茶を煎れて

翠さんの座っている前へとそっと置くと








ミドリ「悪いがしばらくは付き合ってもらうよ」






「えぇ、何ともないといいですね」








翠さんがあの敷居を跨ぐ時には

必ず伴侶となった私も一緒に行かなくてはならない…




つまり、年に数回しか訪れないでよかった筈の

あの家にしばらくは通わなくてはいけないと言う事だ…







( ・・・・・・ )







通うと言っても

私は奥に進む事を許されていない人間で…





私が通うのは…

あの…蓮の池だ…






レン「睡蓮だってば…」







ふと…数日前に池の前で会った

れん君の事を思い出し

はすって…」と言う私に

何度も「睡蓮だよ」と

少し眉を寄せて言っていた

あの…綺麗な顔を思いクスッと笑うと






ミドリ「・・・・・・」






お義父さんの体調が悪いと話している中

いったい何の笑いなんだと言う目を

私に向けている翠さんと目が合い

「夕食は茶蕎麦にしました」と話をそらしながら

キッチンへと歩いて行き

「直ぐ食べられますか?」と問いかけた






ミドリ「・・・まだいい…」






そう言って立ち上がると

私の方に顔を向けて立っている姿が

冷蔵庫に反射して映っていて…




彼が…何を待っているのかが分かり

「先にお風呂にしますか?」と

振り返りながら問いかけると

「あぁ」と素っ気ない返事を返し

私が準備をするのを待っている…






「お湯の温度は39度に設定していますけど」






ミドリ「湿気で気持ち悪いから

   少し冷えた温度でいい…」






「1度…下げますね」







そう言って浴室へと行き

湯船とシャワーの温度を38度に下げ

浴室内に暖房をかけた…






ドアの開く音が聞こえ

本当に直ぐに入るのだと分かり

シャワーを手に取りお湯を出しながら

温かい設定温度のお湯が出てくるのを待っていると

ガチャッと浴室と脱衣室を繋ぐドアが開けられ

服を纏っていない翠さんが浴室へと入って来た







( ・・・・・・ )








【 旦那が帰ってくると部屋は片付かないし

  ご飯作って、汚れた服を洗って

  掃除機かけて…もう家政婦よ… 】







私よりも早く結婚をした友人が

「何処の家もそうなるよ!覚悟しとかなきゃ」と…

愚痴を溢していたけれど…






ここの家は…

似ている様で…違う…







開いていたドアはガチャッと音を立てて閉まり

彼が求めている事が分かった私は

シャワーを持ったまま少し横へとズレて…





「どうぞ」と

ワインレッドカラーのバスチェアに座る様促した…







ミドリ「今日は疲れた…

   頭はマッサージする感じで洗ってくれ」







「はい…」







バスチェアに腰を降ろして

「ふぅー」と疲れたタメ息を溢している翠の頭に

優しく手を添えて「目を…閉じててください」と言い

シャワーを首の後ろからゆっくりと当てていった








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