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「・・・・・・」
レン「なに突っ立ってんの?笑」
彼が特別と言って案内してくれたのは
木と木の間に小さな段差ができているただの窪みで…
「特等席だよ」と言って
椅子に座るかの様にドカッと手を伸ばして座り
「後一人位ならいけるよ」と…
隣りに座る様に言ってくれているけど…
湿った土の上に座る事に少し…抵抗があった…
「・・・立ってるから…」
レン「せっかくの特等席なのに…」
気を悪くしたかなと
気まずさを感じて意味もなく
耳の後ろを触っていると
「まぁ…いいけど」と直ぐに笑った声が聞こえ…
レン「はぁ……いいよね…花は…」
「・・・・好き…なの?」
とても花を愛でるタイプには見えず
皮肉を交えて問いかけると
「スキっていうか…俺だから…アレ!」と
訳の分からない答えが返ってきて
思わず「へ?」と心の声が漏れた
蓮君は…
少し変わっているとは聞いていたけれど…
アメリカ帰りだから
アッチ系のジョークなのかと思い
笑った方がいいのかなと戸惑っていると…
レン「名前だよ、な・ま・え!笑
俺の〝蓮〟はこの睡蓮の花からつけたらしいから」
「あ…あぁ……素敵な名前ね…」
よくある名付け方だなと
気持ちの入っていない返事を返すと
「素敵?どこが?」とまた変な問いかけをされて
自分の顔がピクリと引き攣ったのが分かった…
( ・・・苦手だ… )
レン「適当な人だね?笑
まぁー…適当な人間が適当につけた名前だから
しょうがないのかもね…」
「・・・適当?」
随分と捻くれた子だなと思い
そう口にすると
「適当だよ」と両手を首後ろに回して
頭の付け根を支えたまま
少し窪みに深くもたれかかっている…
レン「じーちゃんが好きだからって理由だけで
勝手に蓮なんてつけられてさ…
由来や意味なんて全くないんだから」
捻くれた物言いとは違って
声は…なぜか楽しそうに笑っていて…
益々分からない子だなと思い
「由来がほしかったの?」と尋ねると
顔をコッチへと向け真剣な顔で
レン「小学生であるじゃん
私の名前の由来みたいなの発表するやつ!
皆んなは太陽の様に明るくとか
幸せな子にとか…
ちゃんと考えられて名付けられているのに
俺だけ、じーちゃんの好きな花だよ?笑」
「・・・そう…ね…」
言われてみれば
少しだけ不便に感じだし…
また耳の後ろを触っていた…
レン「じーちゃんの好きな花じゃなんか嫌で…
どうせなら俺の好きな花でしてやろうと思って
毎日ココに来て座って眺めてるんだけど…」
「・・・好きになれたの?」
レン「なんかねぇ…微妙なんだよね…
物悲しいっていうか…
綺麗だけど手に取ろうとは思えないし…」
彼の言う通り、蓮の花を手に取ろうなんて
一度も思った事はないなと思い
池の上に浮いているその姿をジッと見つめていると
鼻先にポツッと小さな雨粒が落ちてきた
レン「あー…ついに降ってきたね」
池の水面にも
所々…円を描く模様が表れていて
雨が降ってきたんだと分かった
レン「そんな所に立ってたら濡れるよ?」
「そこに座っていても濡れるわよ…」
屋根のある所に移動しようかと思っていると
「濡れないよ」と笑う声が聞こえ
「え?」と蓮君の方へと顔を向けると
確かに…蓮君の周りには何も落ちてきていなかった…
レン「二つの木が守ってくれてるから」
「・・・・・・」
両脇にある木の枝がお互いに伸びていて
沢山の重なった葉と葉が傘がわりになって
雨粒が落ちてこないんだろう…
「・・・戻らないの?」
レン「睡蓮ってさ…雨の中だと
不思議と綺麗に見えるんだよ…」
「・・・・・・」
雨の中の姿なんて見た事なかったし…
翠さんはきっと…まだ出て来ない…
そう…これは、ただの気まぐれ…
蓮君の側へと近づき
「座ってもいい?」と尋ねると
顔を池に向けたまま「どうぞ」と言っているから
スカート伸ばして腰を降ろそうとすれば
「待って!」と急に声をあげ…
レン「スカート白じゃん…ちょっと待って…」
そう言ってTシャツの上から羽織っていた
水色の薄いシャツを脱いで窪みに敷くと
「はい、どーぞ!」とニカっと笑っている
「・・・あっ…ありがとう…」
レン「最初のお客様だしね…サービス?笑」
雨の降る中…
お互い並んで座って…
ただ…池の上に咲いている花を眺めていて…
これが…私と彼の出会いで…
秘密の始まりだった…
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