第14話

○隠されていたこと


 家庭教師が来て、ルーシーちゃんは部屋で勉強をしている。

何もすることがない。

いやいや、何かあるだろ自分。

あ、そうだノートだ、確認しなきゃ。

部屋に戻り、ノートを手に取り、また応接間に降りる。

途中、執事に、三銃士が集まる件を伝えるが

「存じております。対応致します」

とか言われちゃって、ひえ、執事は優秀です。


応接間で、ノートを開く。


一、結婚後は、魔法の国の貴族になる。

ニ、アンソニー王子の妻として品位のある行動をする。

三、ルーシーのママとして母親業を専任する。

四、魔法使いになるために修行をする。

五、魔法国を愛し守ることを誓う。


とにかく攻略法を考えないとね、とは思うものの、何から始めたらいいのかわからない。

今夜こそ、アンソニーさまに相談しよう。


もうすぐ、三分のニ銃士がやってくる。

トッツィもくるだろう。


「ウォーリー様、ご到着です」

慌てて迎えに出る。

やっぱりフレンチブルドッグでした。

向こうも、おっと、というリアクション。

「お待ちしてました。アンソニーの婚約者まりんです。よろしくお願いします」

「ウォーリーです。こちらこそ、よろしく頼みます」

お決まりの挨拶をする。


ふーん、今更ながら、言葉を話すフレンチブルドッグなのね。


「こちらの部屋です」

と、案内する。


また、ひとりだ。

じっとしていると眠くなる。

たぶん、うとうとしてたと思う。

はっと顔を上げると、ややっ、きゃあ、のけぞる。

目の前に、フレンチブルドッグの顔が、顔がある。覗き込んでる。

目を丸くして絶句。

トッツィ?

トッツィよね?

そっけない態度で、そのまま隣りの書斎に入っていく。

それをただ見ていた。

え、えー、何にも言わないの?

何か言ってよ、トッツィ!

訳わかんない。

なんだか、泣きたくなる。

寂し過ぎる。

ポロポロ涙がこぼれた。

バタバタとニ階に上がり、部屋に入ると、ベッドに飛び込む。


もー知らない!

足をジタバタする?

何やってんの自分。

何か失敗したみたいな。

わけわからん。


てか、そんなこんなで不覚にもそのまま眠ってしまった。

嫌なことがあると眠くなる体質なのだ。


 ふーっ、と目が覚める。

ここはどこ、私は誰?

あ、そうだ。トッツィに無視されたんだわ。

酷いわ、寂し過ぎる。

ピローに顔を埋めてジタバタ。

はーっ、何がなんだかわからん。

ピローをぶん投げ、起き上がる。

と、そこに、目の前に、目の前のソファにトッツィが座っていた。

見られたみたいね。

視線を合わせないようにうつむいたまま、ゆっくりベッドに座り直す。

まだ見てるかな、顔をあげる、やっぱ見てた。


「まりんさん、何やってるんですか。情けない」

えっ、情けないって何よ!キッと睨む。


トッツィは足を組んで偉そうに座ってる。

「睨んでもダメですよ。しっかりしてください」

え、私に何をしろと言うの?

あらっ、ところで

あらっ、言葉話してる。

それに、勝手に部屋に入ってるし。まじまじとトッツィを見る。

ニヤリと笑われる。

ひえ。

思わずうつむく。


「まりんさんは、どうしてこの世界にきたのですか」

突然そんな質問されてもね。

別に、とか言いたい感じ。


「ルーシーが君をいたく気に入っていたから、様子をみていたんですよ。その時点で、確かに、まりんさんが第一候補だったけど、強制はしてないはずです」

えっ、何を言ってんの

さっぱり意味不明。

でも、あ、そうだ。

ルーシーちゃんが私を選んだとアンソニーさまが言っていたのを思い出した。

「あの、第一候補とは、何の候補なの」


トッツィは答えることなく、黙ってこちらを見ている。

そして。私の質問はスルーして

「最初は、あなたの叔母である瑠璃子さんのパワーを借りたかったのですが、残念ながら、亡くなってしまった。

すぐルーシーが、まりんさんのことを知り、まりんさんがいい、ママになって欲しいと言い始めたのですよ。

ちょうど、仮の姿の僕が、まりんさんの家に引き取られたのも、タイミングが合い、その後は、この状況です。

でも、何度も言いますが、決して強制はしていない。まりんさんが自分の意思でこの世界にきたんですよ。

それなら、早くこの世界のことを理解してください」

「もちろん、そのつもりでいます」

ムキになってしまった。


「なぜ、君の叔母である瑠璃子さんのパワーが必要だったのか、これから順にわかります。いきなりだと理解できないと思うし、まだ早いと考え、今は控えます。

だから、もしここでストップして戻りたいなら、もし逃げるなら、今しかありません。

どうしたいですか」

「ちょっと待って。待って」

両手で止めようとか、変なリアクションしちゃった。大失敗だ。頭がぐるぐるする。


叔母の力を借りたかったとか、私は叔母の代わりなのか、何をしろと言うのか。

戻るとか、逃げることは考えてない。

どうしたいですかと聞かれても、一度決めたことだから、何があろうとここでがんばれると思う。


トッツィは静かに部屋を出て行った。


 そうね、確かにそう。

ここまでアンソニーさまに一目惚れしてまっしぐらだった。

後になって、あれこれ考えているのは確かだ。

情けない。

トッツィは、まだ間に合うと言いたいのね。


最初にメッセージが入った時からこれまでのことを思い出していた。


「まりんママ!」

ルーシーちゃんが呼んでいる。

時計を見ると、十二時過ぎていた。

午前の家庭教師が帰ったのだ。


ランチタイムだ。


でも、動けなかった。

トッツィは返事を待っているのかしら。

どうするか決意表明とかするべき?


 トッツィだけじゃなく、みんなが返事を待っているのかもしれない。

そう思うと、ランチの部屋に行くには足が重い。

急に空腹を感じながらも動けないでいた。


「まりんママ!ランチタイムですよ」

ルーシーちゃんが駆けてきた。

「早く、早く」

元気だ。

手をとり引っ張られる。

「はい、行きますよ」

仕方なく動く。


答えはもう決まっていた。

ここでがんばる。

そう決めたのだから!


グズグズするのはいつものことだが、その割に、スパッと決めるのが私。

石橋叩いて飛び越えるのだ。


ルーシーちゃんに手を引っ張られ食事の部屋に入る。


三銃士とともに、テーブルの奥を囲むように座り、何やら話し込んでいたアンソニーさまがこちらを向き、鉄壁の笑顔で迎えてくれた。


ルーシーちゃんと並んで座る。

黙々と食べる。

「ジュースを取ってください」

ルーシーちゃんが指差す,

ご飯にジュース。あ、洋食だからいいんだわ。

サーバーのジュースをグラスに入れて前に置く。

「はい、ゆっくり飲んでね」

ルーシーちゃんはニコニコしている。

アンソニーさまたちは雑談中。

会話の中には入れない。


人数が多いから、賑やかなランチにルーシーちゃんはうれしそう。

それなら機嫌良く食べよう。

ちょっとだけだがそれも思いやりだ。

「美味しいね」

笑いかけると

「はい」

と、にっこり微笑み返す。


 ランチが終わり

アンソニーさまたちはまた書斎に入る。

ルーシーちゃんは、ピアノのレッスンだ。


またひとりになった。

ノートを出す。

あ、そうだ。

後ろの余白ページをdailyにして

その日のことを書き込もうかしら、と思う。

でも、今はまだこれといって書くことがない。


あ、でも、今日は三銃士に会いました

とか

今日は、トッツィに説教されました

とか

書いておこう。

そんな感じね。

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