第10話

○魔法の国で


 「まりんさん、僕はこの国の王子なのです」

え、キョトン顔になる。


ランチ後、ニ階のバルコニーに行き、ふたりで話をしていた時のことだ。

ルーシーちゃんは、部屋でお昼寝中だったので、初めてふたりだけで過ごす時間だった。


一度目の前回は、一緒にランチをして軽い世間話をしただけで、アンソニーさまは外せないという仕事に行ってしまった。

結局、ルーシーちゃんの部屋で、人形遊びに付き合い、一緒に本を読んで終わったのだ。


 「この国というのは?」

根本的な勘違いがありそうなので聞いてみる。

「魔法の国というとわかりやすいでしょうか」

さらにわからないけど、地底人ではないことだけは理解していた。


「魔法の国は異次元の世界だから、出入りは自由なんです。だから、まりんさんも今はここにいますが、元の世界にも帰ることできます。行き来は自由なんです」

「私ひとりでも行き来ができますか」

「残念ですが、まりんさんはまだ1人ではできません」

ドレスとかシャトーとか時代錯誤な感じがするから

「ここは二十一世紀ですか」

と聞いてみる。

「もちろん、二十一世紀で、今を生きてますただ次元が違うだけ。空間の認識が違うだけです」

正直、難しくてわからない。

けど、必死に寄せて理解しようと話を合わせたいとがんばる。

だって、アンソニーさまが好きだから。

顔見てそばにいるだけで幸せ。

一目惚れなんだもん。


 ここで新たな情報として、ルーシーちゃんは、行方不明になり生死もわからない皇太子の兄夫妻の娘だと言う。

きっと戻ってくると信じて、それまで大切に預かるつもりで、一緒に暮らしていると話してくれた。実子ではなく姪御さんだった。


 アンソニーさまは、王子と言っても、第3王子だから、比較的自由で、将来のことも、自分で決めることができるらしい。

いろいろ話すうちに、やはり核心の部分を聞かないことには進めないと思い

「私がなぜここにいるのか、なぜ私なのかと疑問なのですが」

と言いかけると

話を切るように

「実は、ルーシーが、まりんさんを選んで、ママになって欲しいとメッセージしたんです」

良き殺し文句だ。

アンソニーさまは微笑みながら、わかっていただけますかというように目に力を入れて私を見つめる。

催眠術ではないが、それで納得してしまった。

一本釣りだったのね。

ルーシーちゃんが愛おしい。

やはりママがいた方がいい。

いいに決まってる。

先走って考えていると

「僕もルーシーと同じ気持ちでいます。

ぜひ、ルーシーのママになっていただきたい」

アンソニーさまが言ってくれた。

その横顔をじっと見つめる。

ママになるということはですよ、それというのはやはりあれですよ。アンソニーさまはパパだから,そうですよ・・・思考回路が混線して

なかなかその言葉が浮かばない。

すると

「返事を聞かせていただけますか」

え、って、もう?

早過ぎる、心の準備が。

って、ドキドキが止まらない。

でもね、答えは決まっていた。


「はい、ママになります」

アンソニーさまは、くるりとこちらを向き

「それは、僕の妻になるってことでいいのですか」

おっ、きたきたその言葉を待っていたのだ。

即答だった。

「はい、二人で一緒にルーシーちゃんを育てましょう」

人生はノリだ。


 次元のこととか難しいことはわからないけれど、とにかくこのままここにいたいと思っていた。インスピレーションかもしれない。

ルーシーちゃんは可愛いし、両親がいないため、寂しい思いをしている、きっと愛に飢えているに違いない。

私がなんとかしてあげたいと思う気持ちに、プラスして、それ以上に、アンソニーさまに惚れました。

一目惚れです。

付き合いたい、一緒にいたい、結婚したい。


 ところでそうなると

「ここで結婚したら、元の世界での私はどうなるのでしょうか」

と聞いてみる。

「ここにいていただけるなら魔法をかけておきますから、ご安心を」

魔法?

「私のパパとママに魔法をかけるんですか」

「大丈夫、意識に働きかけるだけだから、一時的に忘れるだけです。みなさん、あなたを見たらすぐ思い出しますよ」

ますます理解不能だが、そのうちに理解できると思うし,理解したい。自分を信じて前に進むと決めた。


そうして

まりんは

後先のことなど、それほどというか、全く考えないまま、魔法の国に残ってしまった。


もう18歳!まだ18歳!

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