第2話
○トッツィ
トッツィは瞬間移動ができる
かもしれないって話なのだ。
なぜかって、見たから(笑)
フレンチブルドッグのトッツィをうちに連れてきた日。
即、トコトコ奥のリビングに行って、ソファのそばに腹這いになって寝ていた。
そのまま、名前を呼んでも知らん顔。
夕食、ベッドに入る時間になっても変化なし。朝まで眠るのかなとそっとしておいた。
翌朝、洗面所で、歯磨きしていたら
何ものかの気配を感じ、振り返ると。
ぎゃ、トッツィが。
上目遣いに。
見られてた。
片側の口元を上げて
ニヤリと笑われたような気がした。
変なヤツだ。
「まりん、トッツィにご飯をあげてよ」
ママが叫んでる。
「はーい」
顔も洗って、キッチンへ行く。
「そこに置いてるのをあげてね」
うわ、やはり量がハンパない。
目を丸くしている私に
「一日一食だからこんなもんでしょ」
と笑う。
「トッツィご飯だよ」
呼んでみたが姿が見えない。
ソファの横に器を置いて探す。
階段まで行くと
あらっ、いつの間にか
一番上のステップに、トッツィがいる。
「トッツィおいで、ご飯よ」
と声をかけ、リビングに戻りながら
ううん?
あの体では階段は登れないはずだと気がつく。
叔母は、マンションのフラットな部屋に住んでいたから
ママが引き取る際に
「階段は上がれないから、下の階だけがトッツィエリアね、それかトッツィ専用のエレベーターをつけちゃう?なんてね」
と、冗談混じりに言ってたのを憶えていた。
ふとソファを見ると
ありゃ、トッツィがもうご飯を食べてる。
食べてる。
あれ、でも、いつの間に?
横をすり抜けた気配はなかったし
猛ダッシュしないと時間的に無理だ。
体型的にそんなことができる犬ではない。
一体どういうこと?
呆然として、ガツガツご飯を食べてるトッツィを見つめていた。
初めてトッツィの瞬間移動を見た日だった。たぶん。
十一月のある日、学校帰りに渋谷まで出て、真紀子と歩いていた時だ。
メッセージが入る。
「お願い、私のママになって」
まただ。またあのメッセージだ。
じっと見てると
「何?なんなの」
と、真紀子が気にしてる。
「知らないアドレスからきたの」
「そんなのブロックして削除よ」
「そうするよ」
とは、答えたものの。
前もそうしたはず、ブロックして削除。
なのにまたメッセージがきた。
どうなってるのかな?
とか思いつつ削除する。
とにかくですね、
ママになって
とか言っちゃっても
その前にやることたくさんあるじゃん
と、妙なツッコミ入れてみる。
そんなこんなで
「あ、ここよ。ここが話題のお店でーす」
真紀子が行きたいと言っていたスィーツの店に入る。
ストレス解消には甘いスィーツが一番なのだ。
十二月になり、街もみんなも浮かれるクリスマスジーンズ到来。
我が家もクリスマスイブは賑やかだ。
信者じゃないけど、クリスマスツリーを飾り、家族みんなで、と言っても、ひとりっ子だから、パパママ私の三人だけど、イエスキリストのために楽しく過ごす日だ。
そんなクリスマスイブに
また
「お願い、私のママになって」
メッセージが届いた。
これで三回目だ。
どうしたものかと考える。
とりあえず、乾杯する。
ママたちはシャンパンだけど、私はダサいシャンパン風味の発泡飲料だ。
取り分けてくれた鶏の丸焼きの肋骨部分を食べ、クリスマスケーキを食べながら、どうしようかなとずっと考えていた。
三度目の正直
仏の顔も三度まで
よし、返信しちゃえ
場所を変え、ソファに座り直して
思い切って
「あなたは誰、私はまだ高校生だよ」
と送る
即返信がきた。
えーえっとびっくりしてのけぞる。
見ると
「でも、18歳でしょ。大丈夫!ママになって」
推しが強い。
また、ママになって、かとそればっかりね、と苦笑する。
ふと気がつくと
きゃあ
目の前にトッツィがいる
いつのまに?
片方の目を吊り上げて、へっと笑っているような顔で私をみていた。
何みてんのよ。
ほんとやなヤツ。
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