6. 誇り
流石ホバー船、川も海も一気に渡り、数時間でページェンティスに着いた。
「待て! 降りるな! 一番に降りるのはこの俺様だ!」
セージは子供のように最初に外へ飛び出して行った。
そしてオーソ、パト、ロベリア、バルーンを抱いたディジーが降りて行く。
「あんちゃん、俺も降りなきゃまずい?」
「まずいって事はないだろうけど、どうしたんだよ? お前、なんか変だぞ? ページェンティスに何かあるのか?」
「別に、なんもないよ」
シュロは詮索されたくないのだろう、仕方なくホバー船から降りて行く。
そして最後にシンバが降りた。
セージは直接、城の方へパーツを届けに行ったのだろうが、他の皆は城下町をうろついているに違いない。
——ディジーは何処に行ったんだろう?
渡し損ねているルビーのピアスを渡さなければと、シンバはディジーを探す。
——できれば二人の時に渡したい。
オーソやパトがディジーと一緒にいない事を、シンバは願いながら、町の中、探している。
町から見上げて見える城は聖堂のような造りで、町全体も神聖な雰囲気が漂っている。
「リン王子とラン王女が教会にお祈りに来てるってよ!」
誰かがそう言いながら走って行った。
「へぇ、ページェンティスの王子と王女か。見てみたいな」
シンバはディジーを探すのを止め、教会の方へ足を向け、歩いて行く。
教会のまわりは王子と王女を一目見ようと、沢山の人が集っている。
その中にディジーとシュロの姿を見つけた。
シンバは二人の元へ走って行く。
「シュロ!」
「あんちゃん! 良かった、おねぇちゃんと一緒にいてあげてよ。おねぇちゃん、あんちゃんが来たなら、俺、別のトコに行ってていいよね!?」
「え? どうして? 王子と王女見ようよ、シュロくんも見たいでしょ?」
「いや、俺はおねぇちゃんにムリヤリ連れて来られただけで、別に見たくないし」
「てか、シュロ、お前、身長ないから見えねぇんだろ。肩車してやろうか」
冗談で言ったシンバをシュロは睨み見る。
「私も全然見えないから、シンバ肩車してよ」
「冗談じゃない、そのデカい胸に押し潰されそうだ」
「そんな事言って、女の子一人持ち上げられないんでしょ? 男の癖に力無いんだぁ」
「そうだな、誰かさんが女の癖に重いから」
「重くなーい! 重力が悪いんだ」
「お前なぁ、自分の体重の重さは自分の所為だろ。まだ誰かの所為なら兎も角、星の所為かよ。この星もお前という命に悩んでるよ。いや、この星の所為にされた事で、リベンジで、お前の胸、垂れるぞ。重力で」
「ハァ!? このドスケベ大王、ホント最低!! もうシンバなんかほっといて、行こ、シュロ君!」
ディジーはシュロの腕を持ち、人混みを掻き分け、前の方へ行く。
「お、おねえちゃん、俺、前の方には行きたくないよ、おねえちゃんってば!」
「お、おい、待てよ! ディジー、シュロ! あ、すいません! おい、待てってば!」
シンバは人に打つかりながら、ディジーとシュロを追い、前に行く。そして一番前に出た所で、調度、リン王子とラン王女が教会から出て来た。
シュロは顔を伏せる。その時、
「——シュロ君? シュロ君でしょう?」
ラン王女がシュロを見つけ、駆けて来る。
「ランちゃん・・・・・・」
シュロは王女の名を呟いた。
「シュロ君!」
「違う!」
シュロは突然そう吠えて、
「俺はシトロだ! シュロは死んだ!」
などと言い切った。ラン王女は驚きの表情をするが、シンバとディジーも驚いた。
「嘘よ、私、シュロ君とシトロ君、間違えた事一度もないもの!」
「今、間違えてるだろ、俺はシトロだ!」
「嘘! シトロ君は俺なんて言わないもの。自分の事、僕って言ってたもの。それに——」
「ラン! そんな事どうでもいいだろう」
リン王子がラン王女の肩を持ち、現れた。
「こいつがシュロだろうが、シトロだろうが、何の関係もないだろう」
「お兄様?」
リン王子はラン王女の肩を強く引き、自分の後ろに隠すように、シュロの前に出た。
「ルピナスはビーストの襲撃により堕ちたらしいな。兵士も民も全滅と聞いたが、それでよく一人で生きてられるな」
「お兄様! どうしてそんな事言うの!?」
「どうして? ラン、お前の為だよ」
「私の為?」
「ラン、お前はルピナスへよく遊びに行っていた。しかしルピナスはもうない。シュロだろうが、シトロだろうが、何も守れぬ者は王の誇りもない奴。こんな素性のわからぬ者、ラン、お前とは身分が違う者なのだ。二度と相手にしてはならない」
リン王子はシュロを見下す。
「ちょっと! 王子って言うから、どんな素敵なんだろうって見に来たのに、シンバより最低な奴だなんて!」
そう怒鳴るディジーに、
「おい! オイラより最低ってなんだよ!?」
と、ディジーに突っ込むシンバ。
「兎に角、酷い事を平気で言う奴が、王の誇りなんて持ってるとは思えないけど! 人の上に立つ人は優しい人じゃなきゃダメな筈でしょう? まずはちゃんとシュロ君に謝って!」
ディジーがリン王子に怒鳴ると、あちこちに配置されているページェンティスの騎士達が王子に何をしていると、槍を、今にも向けて来そうな勢いだ。だが、
「そ、そうよ、酷いわ、お兄様! 謝って! シュロくんに謝って下さい!」
と、ラン王女も怒鳴り出したので、騎士達は戸惑う。民達も、ザワザワと騒ぎ出す中、
「・・・・・・リン王子様の言う通りじゃねぇの?」
と、シュロは、何の感情もない口調で、そう言うと、その場を立ち去ろうと、背を向けた。
「待って、シュロ君! あの、私——」
シュロは立ち止まり、振り向いて、何か言おうとするラン王女を見る。
「あの、私ね、何か力になりたくて——」
「同情してくれてんの、王女様。優しいねぇ」
「同情だなんて、そんな・・・・・・私はただ——」
「ただ、可哀相だと思った?」
ラン王女は何も言えなくなる。
「ソレ、同情って言うんですよ、王女様」
シュロはそう言って、人混みに消えた。
「さぁ、ラン、城に戻るぞ。もういいだろう、周囲を見ろ。民達が不思議そうな顔をしている。もう少し行動を考えるんだな。こんな所で、くだらない騒ぎを起こせば、見物されて笑われ者になるだけ。それに変な連中と付き合っていると思われたら、どうするんだ? お前はページェンティスの第一王女なんだ、それを忘れるな」
リン王子も、そう言うとサッサと行ってしまう。
ラン王女は、まだ立ち尽くし、もういなくなってしまったシュロの姿を見つめていた。
民達は事の起こりに騒々しくなっている。
その雑音もラン王女の耳には入らないのか、ただただ、立ち尽くすばかり。
「あ、あの、シュロ君、探して呼んで来ましょうか?」
ディジーがそう尋ねると、ラン王女はゆっくりと左右に首を振り、俯いたまま、護衛の騎士達と共に城へと帰って行ってしまった。
「・・・・・・シンバ」
不安そうに、ディジーがシンバを呼ぶ。
「なんだよ」
「このままでいいのかな・・・・・・」
「オイラ達には関係ねぇ事だからな。王族同士の事で、オイラ達がゴチャゴチャ言えねぇだろう。それに、まぁ、あの王子の言い方にはムカつくが、一理あるしな」
「・・・・・・」
「しょうがねぇだろう?」
「・・・・・・」
「オイラ達にはどうしようもねぇって」
「・・・・・・」
黙ったまま、どんどん俯いて行くディジー。
「・・・・・・あー! もー! めんどくせぇ! だから仲間なんてイヤなんだ!」
と、本当に面倒そうに頭を搔きながら、そう言ったシンバに、ディジーはパァァァッと明るい表情になった。
「しょうがねぇ、気付かせてやるか」
「両想いって事に? 私も協力するよ!」
「バーーーーカ。気付かせてやるのは王の偉大さと、消える事のない誇りって奴だよ。え? ていうか、両想いなの? シュロと、あの王女が? 嘘だろぉ?」
——その日、ページェンティスの宿に泊まる。
セージは配達に来ただけなのに大砲造りにも参加してしまったと、肩が凝り、ベッドの上でパトにマッサージをさせている。
オーソは酒を飲みに、ロベリアは食事に、バルーンはソファの上、眠っていた。
シュロはバルコニーに出て、一人、夜の闇に浮かぶページェンティス城を見つめていた。
シンバがシュロの背後に近付く——。
「シュロ」
「・・・・・・あんちゃん」
「お前、あのラン王女の事、気にしてるんだろ? あの王女、同情とかじゃなく、只、本当にお前を心配して——」
「わかってるよ、そんな事。彼女の事は俺が一番わかってる。ずっと彼女の事を見て来たんだから」
「——それは、つまり・・・・・・」
「あぁ、好きなんだよ、彼女の事が」
シュロのストレートの答えに、シンバは驚く。
「そうなんだ、やっぱり両想いって本当だったんだ・・・・・・いやいや、王女の気持ちはわかんねぇしな・・・・・・」
そう呟くシンバに、
「え? 何? 何か言った?」
と、眉間に皺を寄せて聞き返すシュロ。
「いや、こっちの話。ていうか、だったらさ、少しは優しく返してやったらどうよ?」
「できないよ。優しくなんてできない。彼女、言ってただろ、俺とシトロを間違えた事がないって。その通りなんだよ。何故かわかる? シトロじゃない方が俺だからさ。彼女の瞳に映るのはいつもシトロ。俺じゃない。いつも、いつでも俺はシトロの影なんだよ。別にそれでも構わない。ランちゃんが笑うなら俺は影でいい。俺は影で王を支える役でいいって思ってた。でも死んだのは影の俺じゃなく、シトロ本人だ。そんな事言えないよ。悲しむ彼女を見たくない。せめて、生き残ったのはシトロだと思わせといてあげたい。でも、やっぱり、俺の気持ち上、優しくはできない・・・・・・」
と、下を向くシュロ。そして、そうかと頷くシンバ。
「シュロ君、優しいんだね」
ディジーがバルコニーに来た。
「自分を殺して迄、愛してる人の事を考えるなんて優しすぎだよ」
「それは違うだろ、ディジー。コイツは優しいんじゃない、臆病なだけ」
何時に無く、シュロに対してシンバの口調が突き放すように厳しい。
「まぁ、オイラは、その、王女とシュロがお互いどう想ってるかとか、よくわかんねぇけど、お前はさ、王女が好きだと言ったよな? だったら、それだけハッキリわかってる気持ちを、王族じゃなくなったからって、言えなくなったのは臆病だからだろ」
「別に俺は王族じゃなくなったから言えなくなった訳じゃない! 元々、言う気はなかった! 俺はシトロの影だから・・・・・・」
「影? シュロ、お前がオイラに付いて来るのは、一人じゃ何もできないからと言ったな。自分と向き合えないから、先ずオイラまで辿り着くと言った。——ふざけるな!!!!」
突然、怒鳴るシンバにディジーもシュロも、ビクッとする。
特にシュロはシンバを驚いて見上げる。
「影の癖にどうやってオイラまで辿り着くんだ。何が影だ、何がシトロだ、そんなの、お前の逃げ場なだけだろ。お前は何もかも失い、残された自分が自分じゃなけりゃいいと思ってんだろ。全部、シトロに押し付ければいい、そういう事だろ!」
「違う!!」
「違う? だったら、なんで逃げるんだよ!?」
「別に逃げてない!!」
「逃げてるだろ!! ルピナスは堕ちたと、お前もそう思ってるんだろう!!」
「ルピナスはビーストに堕とされたんだ!! あんちゃんだって見ただろ、ルピナスを!! もう終わったんだよ!! 何もかも失ったんだ!!」
「お前がいる限りルピナスは終わりじゃない!!」
そう吠えたシンバに、シュロは黙り込んだ。
「王の血がある限り、ルピナスは堕ちてない。お前がいる限り、ルピナスは終わりじゃない」
シンバは、そう言って、シュロに目線を合わせるように腰を落とす。
「お前、オイラみたいになりたいって言ったよな。なれるよ、誰だってなれる。オイラみたいになりたいなら、なればいい。でも、お前はルピナス王の血を受け継いだ、正真正銘の王族なんだ。それはなりたいと思ってなれるものじゃない。お前が生まれた時、王がシュロと名付け、お前は今もその名で生きている。影じゃなく、シュロ本人として。お前がこの世に生まれた時から、そう定められた運命なんだ。全て失ったら、お前はもうルピナス王の息子じゃないのか? お前の中に流れる血は、あの偉大なるルピナス王の血じゃないのか? シトロにだけ流れてる血だったのか?」
「俺の血・・・・・・」
シュロは自分の手のひらを見つめる。
「あの嫌な王子の言う事も一理あるよな、兵士も民も全滅と聞いたが、それでよく一人で生きてられるなって言ってただろ、確かに何もかも失って王だけ生きてるなんて滑稽だ。でもさ、ルピナスはいい国だった。お前が生きてるとわかり、お前がルピナスを継いでくと言うなら、お前を助けてくれる国もあるんじゃねぇの? いい国は他国とも交流があるだろ、だから、お前も王女も知り合いなんだろ? 変なプライドは捨てて、王としてのプライドを持って、助けてくれって、頭でも下げてみりゃいいじゃん。あの王子は兎も角、王女は助けてくれそうだろ」
シュロは、そう言ったシンバを見る。
「なんだよ? 頭なんか下げれねぇってか? でもルピナスの兵士はルピナスを護る為に戦ったんじゃねぇの? 結果は全滅だったとしても、お前だけでも生き残った事は、ルピナスを愛した者達の希望だろ。お前はみんなの希望を叶えてやる為に、生き残ったんだから」
「俺がみんなの希望を叶える・・・・・・?」
「そりゃそうだろ、お前、何のためにルピナスに人が集まったと思ってんの? 王の思想に賛成した民達が、王の信念を崇める戦士達が、王の生きざまを愛した人々が集まってルピナスができてんだろ。そして、その王の思想も信念も生きざまも、みんなの希望だろ、それがどんな困難な事であろうと、未来永劫、いつかは叶えてみせると、受け継いだのが、お前だろ」
「・・・・・・」
「あの嫌な王子さ、アイツがお前だったら、どうするかな? 土下座でも何でもして、他国に助けを求めて、無様でも、自分の王族の誇りを貫くかもな。ページェンティスを捨てないだろ、絶対に」
「・・・・・・」
「お前だってそうだろ? お前の中に流れる血は、あの偉大なるルピナス王の血だろ。それは、お前に残った、お前である証、消える事のない王族の誇りだろ」
「・・・・・・俺の誇り」
シュロは、そう呟くと、また自分の手のひらを見つめ、その手のひらをグッと握り締めた。
「あぁ、でも、今のお前は王族でもシュロでもねぇな。シトロだの、オイラまで追い付くだの、お前がなりたいものとして勝手に造りだした影だ。それにお前も気付いてるから、自分を影だなんて言い出す始末。そんな王はいらねーな! 誰も付いて来ねぇし、誰も希望にしねぇし、誰にも崇められない本当に滑稽な王だ。後世、ルピナスはビーストに堕とされた国として消えるか、望みのない滑稽な王に潰されたと残るか」
シュロは拳をぎゅっと強く握り締める。
「・・・・・・ねぇ? なんか、今、悲鳴みたいなの聞こえなかった? 一瞬、揺れたし」
ディジーが、そう言った時、
「きゃーーーーっ!!!!」
誰もが耳に届く、女性の悲鳴が聞こえた。
宿の部屋にいたパトとセージ、バルーン、そしてバルコニーにいたシンバとシュロとディジーは何事かと外に走り出た。
オーソとロベリアも、皆の元へと駆けて来る。
全員、無事に揃っている。
ページェンティスが、ビーストの群れに攻め込まれ、人々は逃げ惑っている。
狼の変異型と思われるビーストの群れで、どこかにリーダーとなる者が一匹いる筈だ。
ここは、でしゃばらず、シュロに主役を譲るかと、
「シュロ、ここはいいから、お前は城へ行け。オイラ達が、ここで悔い止める」
シンバは、そう言った。
「だ、だけど——」
「王族としては、やられちゃったけど、お前の強さなら、あの王子をギャフンと言わせられるチャンスだ」
そう言ったシンバに、
「でも——」
と、シュロは、どうしていいか、わからず、只、拳を握り締めている。
「でももへったくれもねぇってんだ! さっさと行って来い! 行かねぇと10年後は俺様の女にしちまうぞ!」
セージがそう言った。
「王女に、いい所を見せるチャンスじゃない?」
ロベリアがそう言った。
「シュロ君は自分が思ってるより格好いいですから、自信持って大丈夫です!」
パトがそう言った。
「全く最近のガキはませておる。まぁ、力の限り頑張って来るのだな。応援している」
オーソがそう言った。
「クルッ! クルルルルル!」
バルも応援しているようだ。
皆、何も言わなくても、シュロの気持ちや悩みに気付いていたようだ。
というか、やっぱり両想いなんだなと、みんなのセリフに、シンバは思う。
両想いと気付くトコはどこだったんだろう?と、考えながらも、ここは、自分もわかってると言う風に、
「行け! シュロ! お前を待ってる王女の所へ!」
と、ページェンティス城を指差した。シュロは頷き、走り出す。
「シュロくーーーーん! 頑張ってねーーーー!!」
背後でディジーの励ましの声が聞こえ、シュロは振り向いて、皆にガッツポーズを見せた。
——大丈夫、もうシトロ(自分)なんかに負けない!
シュロの中で、これから何をすべきか目覚めた。
たった一人、ルピナスの血を継ぐ者として、王族として、誇りを持って戦う為に!
ページェンティス城の中もビーストが入り込み、多くの兵士が戦っている。
ドーンドーンと大砲の音も響き、体に聞こえて来る。
王の間に向かうにつれ、兵士の死体も増えて行き、シュロの足が速くなる。
「きゃあーーーーっ!」
悲鳴を上げるラン王女を抱き締めているリン王子。そして一匹のビースト。
——あのビーストは!
そのビーストは左目が潰れていた。そう、ルピナスを襲ったあのビーストだ。
今、ビーストが鋭い爪を振り上げ、リン王子はラン王女を強く抱き締め、目を閉じた。
ガッキーーーーン
火花が出るような金属音に、リン王子がそっと目を開けると、シュロが大鎌でビーストの爪を受け止めている。
「——シュロ? どうしてここに?」
「リン、ランちゃんを連れて逃げろ! 心配ない、この城は守ってやる。ランちゃんが帰る場所だ! 俺が守ってやる!」
「何故お前がそんな事を・・・・・・」
「何故って、ページェンティスは、ルピナスと同盟国だろ! 俺はルピナスの王族として、同盟国を守らなければならない!!」
「だが、ルピナスはもう・・・・・・」
「俺が生きてるのにルピナスは終わってない!! 俺はルピナスの王になるんだ!!」
「・・・・・・」
「リン、見てろ、俺は必ずルピナスを復興する。お前の納得いくような男になって、世界で尤も愛される王になって、民達に慕われる王になって、そしたら・・・・・・」
「そしたら・・・・・・?」
「そしたらランちゃんは必ず貰いに来る!!」
ビーストの爪に押されながら、そう言った後、
「逃げろ!! 早く!!」
シュロがそう叫ぶので、リン王子はラン王女の腕を引っ張り、その場から逃げた。
だが、ラン王女は、リン王子の手を振り解き、シュロが戦っている姿を見つめる。
シュロは背後に2人がいなくなったので、自らチカラを抜いて、身を引くと、ガキンガキンと、爪とキバを、大鎌にぶち当てながら、ビーストの隙をついて、高く飛び上がった。
「俺は多くの人を守ってみせる! ルピナス王の息子として! 王族として!」
そう叫びながら、ビーストの背後を取り、
「もう誰も死なせない!!」
と、大鎌を大きく振った、が、ビーストに素早く避けられた。
ビーストは俊敏な動きで、シュロを弄ぶ。
——くそ! 唸り声まで笑い声に聞こえやがる。
ラン王女はシュロが戦っているのを見ているしかできなかったが、逃げる事は考えなかった。
それをリン王子も悟ってか、ムリヤリに、その場から連れ去ろうとはせず、共に、この戦いの末を見守る事を選んだ。
そしてラン王女は、
「もう、やめてぇーーーーっ!」
泣き叫ぶ悲鳴を出す。その悲鳴が聞こえる度、シュロは立ち上がった。
——コイツはシトロを殺した。
——父や母を殺した。
——もう何も俺から奪い取らせやしない!
——誰も死なせやしない!
——俺は王だ。
——王として、俺は、こんな嘆きを繰り返さないよう、戦うんだ!!
しかし、気持ちはあるものの、身体に限界が来ていた。ビーストの大きな爪の一振りの見える攻撃でさえ、交わす力がなく、目を閉じるしかない。
シュロは目をぎゅっと閉じた。
——くそっ! くそくそくそっ!!!!
シンと静まり、何の攻撃も受けず、シュロはそっと目を開けて見る。
「悪りぃ。遅くなっちまったな」
ビーストの大きな首を持ったシンバの姿。
シュロはホッとして、そのまま倒れた。
「お、おい、シュロ!?」
シンバはシュロを抱き受け止める。
「シュロ君!」
ラン王女が駆け寄る。
「すいません、シュロの手当てをお願いできますか。オイラはまだ残ってる雑魚ビーストを仕留めて来ますんで」
シンバはラン王女にシュロを託す。
「ラン、シュロをベッドに運ぼう」
「お兄様」
「負けたよ。シュロの王としての誇りには。お前が好きになった男な訳だ」
リン王子の、その台詞を聞いて、シンバは安心して残りのビーストを倒しに行った。
シンバが最後の一匹に止めを刺した時、朝日が登り始めた——。
終わった。犠牲は多く出たが守り抜いたのだ。
シュロも傷だらけとなったが、すぐに目覚めた。
結局、ビーストの殆どを仕留め、活躍したのはシンバな訳で、ページェンティス王に深々と頭を下げられ、礼を言われたのもシンバ一人となった。
——出発。
シュロは包帯だらけの姿でシンバの隣にいた。
「町は殆ど崩れちゃったけど、城だけは何とか形を残せたね」
ページェンティス城を見上げ、ディジーが言った。シンバも城を見上げる。
「城さえ残れば町は直ぐにでも発展するさ。重傷者はいるけど、死者が出なかっただけマシ。さぁ、行こうか」
シンバ達がページェンティスを出ようとした時、
「シュロくーーーーん!」
ラン王女が駆けて来る。しかしシュロは動こうとしない。
シンバがシュロの背中をポンっと押すと、シュロはシンバを見上げた。
シンバはコクンと頷いて見せる。
シュロはラン王女の傍に歩いて行く——。
「シュロ君、私ね——」
「ランちゃん、俺、まだまだ王になる器じゃないから、強くなる為に、まだあんちゃんと旅を続ける。あんちゃんみたいに強くなりたいから。強くなって、いつかルピナスを築き上げて、俺が王として、みんなを守るから——・・・・・・
ランちゃんを守っていきたいから——・・・・・・
俺、シトロじゃないけど、だけど、俺は俺として、シトロに負けないくらい頑張ろうと思う。シトロみたいになれないけど、俺は、俺は——・・・・・・」
「シュロ君が好きよ」
ラン王女に先を越されたまさかの告白。シュロは驚く。
「だってランちゃん、シトロの事が好きだったよね?」
「何言ってるの? 私がずっと好きだったのはシュロ君よ」
「え!? だって、ランちゃん、いつもシトロと仲良く何かコソコソと話してたし」
「シトロ君には、いつもシュロ君の事、相談にのってもらってたのよ。あーぁ、シトロ君の言った通りだわ。シュロの奴、僕と違って自分の事には鈍いからなって言ってた」
「だ、だってシトロの奴、そんな事一度も言わなかったよ?」
「当たり前でしょ、私だって口の軽い人に好きな人の相談なんてしないもん」
「だ、だってさ、いつも誕生日プレゼントに、俺にはどうでもいい雑巾みたいなのとか、呪いの人形みたいなのとかくれて、シトロには、ちゃんとしたバンダナとかヌイグルミとかあげてたじゃないか」
「やだ、雑巾とか呪いの人形とか思ってたの。あれは私の手作り・・・・・・」
「え?」
「シトロ君のは既製品だったから・・・・・・」
「え? え? そ、それじゃあ——」
「うん、私が好きなのはシュロ君よ。私、シュロ君の事、待っててもいい? 強くなって迎えに来てくれる? 私、シュロ君と一緒にルピナス再建したいから。私じゃ駄目かしら?」
またも先を越されたまさかのプロポーズ。
「ううん、ランちゃんじゃないと駄目だ」
だが、照れもなく、こうなる事が当然だとばかりに、即答をするシュロ。
愛を確信し合った二人を囲み、皆、自分の事のようにはしゃぐ。
「ぶちゅっとしろ、ぶちゅっと! それとも俺様がぶちゅっとするか? ははははは」
セージが、下品に、そう言いながら、笑っている。
「シュロ君! 格好いいですよ!」
パトがそう言って微笑んでいる。
「全くガキの癖に、なかなかお似合いではないか。未来のルピナス王と王妃に幸あれだな」
オーソがそう言って二ヤリと笑う顔が怖いが、微笑ましく思っている。
「本当に可愛らしいリトルカップルね、ちょっと羨まし!」
ロベリアがそう言って、穏やかな笑顔を見せる。
「クルルルルルルル! クルルルルルルルルル!」
バルーンも嬉しそうに、シュロとラン王女のまわりを飛び回っている。
「シンバのおかげだね」
ディジーが、少し離れて、はしゃぐみんなを見ていたシンバの隣に立つ。
「オイラじゃねぇよ」
「シンバのおかげでしょ? だって、シンバが、シュロくんに、王族の誇りについて話したから、シュロくん、思い出したんだと思うよ、自分の本来の姿に」
本来の王としての姿を、もし、本当に、話をした事で思い出したと言うのなら、それは・・・・・・
「だったら、お前のおかげだろ」
シンバは、ディジーの横顔に、聴こえない声で、そう囁いた。
——なぁ、ディジー。
——あの時、教会の前、シュロが去った後・・・・・・
——『このままでいいのかな・・・・・・』
——お前がそう言わなかったら、オイラは、シュロに何も話さなかった。
——オイラには関係ねぇ事だからって、そう思って、無視したと思う。
——だからさ、これは、お前のおかげなんだよ、ディジー。
「みんなのおかげだね」
そう言って、ディジーは笑顔で、シンバを見た。
「シンバのおかげで、それからオーソさんのおかげ。パトさんのおかげ。ロベリアさんのおかげ。セージさんのおかげ。勿論、バルーンのおかげ。何より、シュロ君自身のおかげ。
今、ページェンティスのみんなが、そして私達が、嬉しくて笑ってるのは、みんなのおかげ」
そう言った後、
「ねぇ、シンバ、仲間っていいね?」
と、目を細め、ニッコリ笑うディジー。
「・・・・・・あぁ」
仲間も悪くないと、わかったような気がすると、シンバは頷いた。
「私ね、シュロ君みたいに王族でもないし、オーソさんのように死者を安らかにする能力もないし、パトさんみたく頭良くないし、ロベリアさんのように美人で色っぽくもないし、セージさんみたく圧倒されるものってないし、バルのように光る角を持ってる訳じゃないし——。
シンバみたいに英雄でもないけど、そんなみんなの仲間になれた事が、私の誇りなんだ」
「・・・・・・ふぅん」
——オイラはディジーを誇りに思ってるよ。
口には出して言えなかったが、ディジーの微笑みに、微笑みで返した。
何を失っても、この誇りを離したくない。
これは大切なかけがえのないもの。
英雄と謳われる以上に大事なモノ。
もう気付かないフリは難しい。
認めなければならない。
——オイラはディジーが好きだ。
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