1. ビーストハンター
ここは鉱山の町ヴィスト。
逞しい体付きの男達が仕事もせずに退屈をしている。
その男達の親方となる者が、一人の青年に話をしている。
フワっとした髪をショートに、その髪の色も瞳の色も優しいブラウン。
人懐っこそうな顔付きが子犬を思わす。
彼の名を、シンバ・フリークスという。
「鉱山の奥に眠ってたビーストが起きてしまってな、もうずっと仕事にならん。にぃちゃん、本当に仕留めてくれるのかい?」
親方は如何わしい表情をする。
「はい、必ず仕留めます」
「そんな子犬みてぇな顔でか? というか、にぃちゃん、本当にあのシンバ・フリークスって奴なのかい? 信じていいのか?」
「今は信じられなくても、オイラがビーストの首を持って来たら、嫌でも信じて貰いますから、今は信じなくていいですよ。そんじゃ、行って来ます」
シンバは嬉しそうな表情で鉱山へと向かう。
「親方ぁ、いいんスかぁ? 鉱山でビーストの餌になるのが落ちっスよぉ。オレッチ等の腕や身体より細い軟弱そうな身体して、そこらにいる犬ッコロじゃないっスかぁ。あの小僧が、あのビーストハンターのシンバ・フリークスだなんて、法螺っスよぉ!」
「まぁ確かにな、オレもシンバ・フリークスという男は、大男をイメージしてたからよぅ、拍子抜けはしたが、奴の噂でな、ソードを2本持っていると聞いた事があってなぁ。あの犬ッコロ、背中と腰に2本持ってやがった。もしかしたら、あの犬ッコロ、獅子に化けるかもなぁ。よぅ、賭けるか? 奴が本者か偽者か——」
シンバは鉱山の中に入り、直ぐに危機にぶつかっていた。人の期待無視に間抜けた奴だ。
ガゴォーーーーン ゴーーーーン ゴーーン ゴーン・・・・・・
頭をぶつけた音が鉱山の奥へと響いてく。
なんと中は真っ暗で何も見えない状態なのだ。
「いってぇーーーーっ! くっそぉ、電力機の場所くらい、言わなくても教えてくれんのが普通だろが!」
このままではビーストを仕留める所か、反対に喰われてしまう。
しかし電力機は暗闇に入って直ぐにある筈だ。
シンバは手探りでそれらしいものを探す。
「お? レバーだ。これかな?」
やっと見つけたレバーをガコンと倒してみる。
すると電灯に点々と明かりが灯されていく。
「ふぅ、一時はどうなる事かと思ったよ」
とかなんとか言ってみながら、掻いてもない汗を拭いてみたりするが、難関は続く。
「あれ? また行き止まり?」
迷子になっていた——。
「あれ? ここ、さっき通ったっけ? えっと、こっちか? やべぇ出口は何処だ?」
シンバの顔は青冷めて行く。
鉱山の中は広く複雑で迷路のようになっている。
こんな所、一人で入っても偶然にビーストに出会うしかないだろうし、それよりも帰る道がわからない。つまり、ビーストに出会い、ビーストの首をとったとしても、遭難したら全て無意味だ。シンバは硬直し、先が見えない不安に駆られていく。その時——
「わぁっ!!!!」
突然、背後から大声で叫ばれて、
「うわあっ!?」
と、シンバは驚きの余り、頭を抱えて、しゃがみ込んでしまった。
その情けない姿を見て、
「あはははははははは、ひぃ、ははは、うひぃ、ひゃはははははははっはっはっはっはぁ・・・・・・」
シンバの背後でバカ笑いする女。
シンバはスクっと立ち上がり、女を睨み見た。
「あはははは、ねぇねぇ、びっくりしたぁ? 聞く迄もないかぁ。あはあはあはははは」
女は笑い続ける。
「なんなんだよっ、お前っ!」
「あはは、へ? ああ、私? 私はね、ディジー・ブローシア。ディジーちゃんって呼んでいいよ?」
「呼ぶか! 誰が名前を知りてぇって言ったよ! そうじゃねぇだろ!」
「ああ、血液型はね、O型。誕生日は——」
「そんな事は知りたかねぇんだよっ!! ここで何してんだ! ああ!?」
ディジーの表情から笑顔が全く消え、
「何怒ってんの? バッカみたい。君こそ何してるわけ?」
と、さっき迄とは違うキツめの口調でシンバを見る。しかしシンバも怒っている。
「バカァ!? オイラはなぁ、ここにいるビーストを倒しに来たんだよっ!!!!」
「うっそ、オイラだってぇ。田舎者だぁ」
ディジーはバカにした口調で言い、クスクスと笑い始める。
シンバの表情は更にムッとして、ディジーを睨んでいる。
「なんでそんなに怖い顔するかなぁ。あ、ねぇ、私ね、トレジャーハンターなの」
「・・・・・・トレジャーハンター?」
シンバはディジーを上から下まで見る。
ショートボブのヘアで、ブラウンの瞳に、驚いたのは肌の白さと胸のでかさ。
臍を出す服装で、厚手のスパッツは右足だけ素足を剥き出した短パンとなっている。
「知ってる? ここの鉱山、レアメタルの原石の山なんだってぇ。そんで潜ったはいいけど、中は真っ暗で困ってたら、あら不思議、パッと明かりが点いたのね、そんでもって、キミの事をみつけちゃったんだ。でもさ、私にはどれもこれも単なる石コロにしかみえなくてさぁ」
シンバは深い溜め息を吐く。
「トレジャーハンターって、ソレ、単なる泥棒だろ」
シンバはそう言い放つと、相手にしてられないと、ソッポを向いて歩き始めた。
すっかり不安は失せている事には気付いていない。
「ちょっ、ちょっと待ってよぉ、泥棒と一緒にすんな! トレジャーハンターなの!」
ディジーはシンバの後を追う。
「泥棒をトレジャーハンターと言ってるだけだろ、物は言いようだな」
「何だよ! 言いたい放題言ってさ! なら、私だって言っちゃうもんね! キミだってビースト倒しに来たとか言ってさ、ビーストハンターごっこでもやってるつもり? バッカじゃないの? そういうのはね、ビーストハンターのシンバ・フリークスに任せとけばいいの!」
——誰かこの女を黙らせてくれ。
「どうせシンバ・フリークスに憧れてとか、くだらない理由でここにいるんでしょ? 無理無理。キミみたいな奴がビーストハンターになれる訳ないもん。特にシンバ・フリークスみたいな有名な正義の使徒にはなれっこないね!」
——誰が正義の使徒だって?
「あ! ねぇ、キミさぁ、シンバ・フリークスに憧れてんなら私と握手する? 私、彼に助けられた事があってぇ——」
——誰かこの女をなんとかしてくれ。
「微弱い私に手を差し伸べてくれてさ、その時に、彼と手繋いでんのよねぇ、私」
——誰が微弱いって?
「ねえ、ねぇったら! 聞いてる?」
「五月蝿い女だな! 何言ってんだ、お前! ついてくんなよ! 何がシンバ・フリークスだ! 何が正義の使徒だ! なれっこないだとぉ!? オイラがそのシンバ・フリークスだ! 生憎、微弱い誰かさんを助けた覚えはねぇけどなぁ!!!!」
小五月蝿くついて来るディジーに、振り向いて、怒鳴りつけた。
一瞬の静けさ——。
「・・・・・・うそぉ」
「嘘じゃねぇよ、お前を助けた覚えはない」
「嘘ぉーーーーっ! イーーーーヤーーーーーーッ!!!! ビーストハンターのシンバ・フリークスってこんな奴だったのぉーーーーっ!?
折角のイメージが台無しだよぉーーーーーーーーっ!!!!」
「どういう意味だ、そりゃあっ!!!!」
シンバの怒りが頂点を超えた時、
ズシーーーーン ズシーーーーン・・・・
おおきな地響きが近付いて来る。ビーストの足音だ。
シンバとディジーの話し声に気付いて来たのだろう。
シンバは腰に携えたソードを一つ、鞘から引き抜く。
するとディジーも両手に嵌められたクラブをグッと握り、甲の部分から鋭い爪をシャキーンと出した。まるで猫のよう。
「もしかして、お前、武術でもする気かよ?」
「ふーんだ、キミなんかに教えたげなーーい」
ディジーはシンバにベッと舌を出した。
——なんて可愛くない奴なんだ。
二度と口なんか聞くものかと思ったが、何故、今、爪を出し、構える必要がある?と、考えると・・・・・・
——邪魔されるのは真っ平だ!
「おい! 一緒に闘う気じゃねぇだろうな!」
「キミみたいなのが、シンバ・フリークスだなんて信用できないもん。後で私に泣きついて来るのはわかってるんだから、その情けない可哀想なキミを作らない為にも一緒に戦ってあげようという私の優しさ。ねぇ、私って思った通りいい人でしょ」
「やかましいっ! 邪魔なんだよ、お前っ!」
「邪魔とは何だよ! 人の心遣いを!」
「迷惑だ! オイラの前から消えろ!」
「透明人間じゃないんだから消えろと言われて消えれるかっ! バァカっ!」
「バカァ!?」
「あ、ごめぇん。本当の事言われると気にしちゃうよねぇ。小馬鹿くらいにしといてあげる」
「コ!? コバカァ!? てめぇこそ——」
その時、二人、大きな影に気付く。
口喧嘩に夢中になり、ビーストが目の前に現れた事に気付いてなかった。
二人、左右に別れ、ビーストの攻撃をかわす。
バトルスタート!
ビーストは猪の変異型と思われる。
その巨体は狭いこの場所で突進くらいしか出来ないだろう。
そんな事よりも驚いたのはディジーの身のこなし。
柔らかく、しなやかに素早い。
——おいおい、あのデカいオッパイでよく動けるもんだなぁ。
揺れるオッパイに気を取られている場合ではない。ああ、いや、ディジーの強さに気を取られている場合じゃない!
シンバは迫ってくるビーストをサッと避け、その巨体の横腹にソードを奥深くぶっ刺した。
「ブオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!」
ビーストは奇声を上げ、痛さの余り、突進しようとする足が空回る。
どういうパワーをしているのか、ぶっ刺した剣の柄を握り締めているシンバの力で、ビーストは逃げれないのだ。そしてシンバは、
「おりゃあぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!」
と、ビーストが走り逃げようとする方向とは逆方向に剣を走らせた。
ビーストの腹がパッカリ開き、大量の血が一気に流れ出る。
胃袋からは消化仕切れてない人骨やら衣服やらが、血と共に出て来る。そして、ビーストは、まだ息を引きとらず、横たわり、ピクピクしている。シンバが首の辺りを、ソードで軽くスッと斬ると、簡単に呼吸を止めた。
ディジーは消化仕切れてないものから、何か探している。そしてオレンジ色の大きな宝石を見つけ、布で綺麗に拭き始めた。
「お前、強いな。実は男だろ。胸板、厚そうだもんな。オイラより厚いんじゃねぇの?」
からかうシンバに、ディジーはベッと舌を出し、子どもみたく、あっかんべぇをした。
「あのビースト、いい物持ってたねぇ。コレ貰ってくね。そんじゃねぇ」
「あ、おい!」
ディジーは行ってしまった。嵐が去った後の静けさとばかりに、シンと静まる。
「・・・・・・なんだったんだ、アイツ」
シンバはビーストの首を斬り落とし、ディジーが行った方向へと歩き出した。すると鉱山から出る事ができた。
ビーストの大きな首を引き摺り、鉱山から出て来るシンバに、鉱山の男共は歓声を上げた。
これでまた仕事が出来ると大喜びだ。
「あんた、本者だったんだなぁ!」
「はい? ホンモノ?」
「いや、こっちの話だ。御礼は本当にこれっぽちでいいのかぁ?」
「はい。一日生活できる分で充分です。明日は明日で稼ぎますから。所で、オイラ、人を探してまして。赤髪のビーストハンター知りませんか?」
「赤髪の——?」
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