第32話
「お前みたいな奴が全国経験者なら、誰でも全国経験者になれるわい。」
ルルはそう叫びながら、ペンチの先を杉本に向けて突進していった。杉本は、私に向けていた斬魂刀の刃を一瞬ルルに向けると手首を捻るような妙な動きをとった。すると、ルルの手からペンチが弾かれて、それが床に落ちてからしばらく滑ったあとに壁に激突した。
「俺が全国経験者なのは理解できたかい? まあいい、お前らに勝ち目はないんだから、大人しく俺に連行されろ。」と杉本は勝ち誇った表情をみせた。彼は再び刃を私の首元に向けると、私を強引に引っ張り体を壁に寄せて、無理矢理にその場に座らせた。
「ルルとかいうやつ、お前も座れ。」
そう言う時だけ、杉本は刀の先をルルに向けて上、下と交互に動かし、座れの合図を出した。
ルルが座ると、杉本は早速こう切り出した。
「俺からの提案だが、実は俺はお前らを助けたいと思っている。」
私とルルは同時に杉本の顔を見て、頭に「は?」の文字列を浮かべた。
「杉本だったっけ?助けたいとはなんだ。連行するんじゃないのか?さっき言ってたどっちかを救うみたいなものか?それとも俺たちをかくまって何処かへ逃してやるてきな話かね?」
「逃がすてきな話かな。人目がつきにくい脱出経路が存在するんだ、この施設には。お前たちにはそこを案内する。」
「いや、待て待て。杉本、君はさっき仲間に連絡をとっていただろう。ここの場所を教えていなかったか?俺がそれを聞いていなかったとでも思っているのか?何を企んでいるんだ。」
「別に?もちろん場所は教えたさ。だけどね、ここと似たような塔はもう一箇所、門の反対側にあってね、つまりそういうことだよ。」
「ふん、怪しいな。なんで急に俺たちを救ってくれるという話になったんだ?俺はここが解決できないと納得できんな。」
「誤解だよ。ただの脅しだったのさ。報酬を貰えれば、2人は殺さない。はじめからそのつもりだったよ。それにこの斬魂刀で誰かを斬る場合には上の許可が必要なんだ。」
「まあいい。それで報酬というのはなんなんだ?」
「明梨を置いていけ。というか、こいつはそもそもここの職員だがな。」
私はびっくりして杉本の顔を覗き込んだ。
私には、彼が一体何を考えているのか分からないし、何のためにそんなことを言ったのか分からなかった。とてもじゃないがその可能性をいちいち精査する余裕はなかった。むしろ自分の考えすぎなのではないかと思った。
「ほほう、お主明梨に惚れ込んどるな。」とルルはニヤついた。
まさかと思い、私は杉本の顔を再び覗き込むと、彼の表情は少し固くなっていた。私は思わず、彼の顔に平手打ちを一発かました。彼の頬には真っ赤な紅葉が咲いていて、それを彼はまったく怒ろうとしなかった。
それで私は彼が本気なんだと理解した。
「ごめん。痛かった?」
私が紅葉に触れると、彼は痛がる。私がまた「ごめん。」と言うと、彼は私の目をチラッと見た後、すぐに視線を戻した。
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