第31話

 「おい!カスタード出てこい。お前の正体はもうバレてんだよ。」

 車を叩く音が車内に響き渡っていた。町子は前列の男2人の間に顔を出し、心配気にカスタードの方を見た。彼女はハンドルの方をじっと見つめたままで何も動こうとしない。

 「あの、カスタードさん。完全にバレちゃってますけど。車動かした方がいいんじゃないですか?」

 カスタードは顔を上げた。

 「そうね、門も開きそうにないわね。ただ、ルル達を見捨てることは出来ないわ。ルル達が入っていったあの門の横にある管理塔?みたいなところに行ってもいいかしら。あそこまで車を飛ばすから、みんなで降りて入るの。」

 「カスタードさん、あそこ行き止まりだったら、どうするダスか?」右側の男がそう言った。

「その時は、ゴンとジン、あなた達の役目よ。強行突破お願いね。」

 カスタードは、エンジルを空吹かしさせて、車を数cm前進させた。すると、車を取り囲んでいた職員達はほぼ全員が怖気付いて車から距離をとった。

 「よし行くわよ。」

車はゆっくりと加速していき、しばらくした頃にはトップスピードになっていた。キキッと車は急停車して、カスタードから順に降りて管理室に入っていった。彼女に続いてゴンとジンが入り、三列目の町子は当然ながら最後尾になった。

 後ろから、男たちの声が聞こえてくる。カスタードはヒールを脱いで裸足になると、螺旋階段を駆け上がっていった。

 「カスタードさん、もしかしてこの階段登るダスか?」

 「もちろんよ、ジン。体大きいかもしれないけど、頑張って登って。捕まりたくないでしょ?」

 「ジン、俺が支えるから一緒に登ろう。」

 「うん、分かったよ。ゴン。」

 町子には見分けが付かなかったが、語尾にダスをつける方がジンらしい。

 大男達が身を寄せながら階段を登る横を町子はすーっと追い越した後、数段飛ばしで階段を駆け上がり出した。少し前まで、老いた体を引っ叩いて動かし続けていた彼女だが、今は20代の体になっている。ぴちぴちの体は彼女の思い通りの動きをしてくれて、さらには疲れを全くといっていいほどに感じなくなっていた。

 

 「ルル…、助けて!」

 私は首を絞められて上手く息が出来ないながらも、必死に助けを求めようとしてそう叫んだ。杉本の左手には例の斬魂刀が握られていて、右腕で私の首を抱え込んでいる。左手の斬魂刀の先が私の方に向いていて、彼の気分次第で私はすぐにでも殺されそうな状態だった。

 私たちの前にはルルが何故かペンチを持って正対していた。

 「明梨ちゃんを離せ!俺はそんなちゃっちな子供刀でビビるような男じゃないぜ。」

 「ちゃっちな子供刀?これは魂をも斬る恐ろしい刀なんだぞ。それに俺は、剣道全国大会経験者、まさに鬼に金棒だぜ。自分で言うのもあれだが。もし殺されたくなかったら、俺の言うことを大人しくきくんだな。」

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