第30話
「上の人間が否定してるぞ。どうやら、契約破綻だな。」
「待って待って、別にルルを痛い目に合わそうって話じゃないんでしょ?ねぇ。」
「ああ、ただ逮捕されるだけだ。この件で捕まったら、一生生まれ変わり出来ないと思うけどね。」
「ふざけるな、明梨も走れ!下の男に捕まったら、どちらにしろ俺もお前もムショ行きだぞ。あと、俺を売ろうとした件、一生忘れないからな。」息を切らしながら、ルルは怒鳴った。
私はハイヒールを脱いで靴下だけになった。下を再び覗くと、杉本が2段飛ばしで螺旋階段を駆け上がっているのが見える。私はハイヒールを二足とも左手で抱え右手を手すりに添えながら、1段飛ばしで階段を登っていった。
ルルは一足先に螺旋階段の出口に辿り着いたみたいだった。大声で「先に行ってるからな〜。」と私に怒鳴った。私には返事する余裕はなかった。私のすぐ後ろには杉本が迫っていて、あと腕4本分しかなかったからだ。まだ螺旋階段のちょうど半分を通過しただけで、道のりは遠い。私は立ち止まり、杉本との決闘に作戦を変更した。
「待って、私にはハイヒールがあるわ。これ以上近付いたら、この先であなたを突くわよ。」
私は、ハイヒールを左右の手に一つずつ持ち、裏面を杉本に見せるような格好をとった。杉本も立ち止まり黙って私を見つめる。そして、私から目を離さないようにしながら、背中から何か棒のようなものを取り出した。棒の先端を下に向けながら、杉元は棒についてあるボタンを押した。棒は、ボタン一つで先端から刃物が現れる仕組みになっていた。杉本は刃物を私に向けながら、こう言った。
「諦めろ、明梨。これは斬魂刀と言ってな、この世でも生き物を斬って殺せる特殊な武器なんだ。そのハイヒールの針の部分じゃ、俺を殺せないし、なんならダメージを与えれるかどうか。」
私は悔しくなって、歯ぎしりした。目つきを鋭くしたが、そこには薄らと涙が浮かんできたのが自分でも分かった。負けたと思ったが、負けを認めるわけにもいかない。ここで抵抗をやめたら、ムショ行きなのは確実だからだ。
「大人しくムショに行くんだな。生まれ変わりが一生出来ないなんて、脅しだからあんま気にすんなよ。」
杉本は、胸ポケットから無線を取り出すとどこかへ連絡を取った。
「あ、門の下にある車、やっぱり脱走計画を立てていたカスタードの仲間のもので間違いなさそうです。一匹、門の操作室に向かっている途中の女を捕まえました。もう1人男がいましたが、そいつは取り逃しましたね。…いえ、管理室に向かっていたので、逃げ出してはいないでしょう。あははははは、そうですね。一人で管理室に行っても何も出来ないですよね。」
勝った気になっている杉本がものすごくウザく感じた。
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