第29話
ルルは、門番室の前で立ち止まって中を覗いた後に、そこに入っていった。私も続けて入ると、もうそこには彼の姿はなく、真っ正面の奥の方に螺旋階段が見えているだけだった。螺旋階段の下まで進み、上を見上げると、長い階段とルルが一段飛ばしで登っているのが見えた。
「ちょっと待って、ルル。ここ登るわけ?」
「当たり前だろ。」冷たくルルは答えた。
「私、ハイヒールよ!ここの階段結構長いわけ。私には無茶よ!」
「無茶なら、こなくていい。車に戻っとけ。」ルルの口調は、さっきよりもさらに酷く冷たいものになった。
なんで急に不機嫌になってんのよ。
私はムッとなって、螺旋階段の1段目に腰を下ろすと、ルルが一歩一歩踏み込んでいる様子を下から眺めることにした。その間に、何度かルルが下をチラ見して、私たちは目があったような気がしたが彼は何も言ってこなかった。
「お、明梨か?そんなところで何やってんだよ。」遠くから杉本の声が聞こえてきた。
私が目線を下げると、門番室の外に誰かと立ってこちらを観察している杉本の姿があった。彼は「お〜い!返事くらいしろや。」と追加で声を上げた。私はビビッと急に、ヤバイバレる、と思いその場であたふたした後に、これまた急に逃げなきゃという発想が頭に浮かんだ。横にある段差に振り返って息を飲むと、一歩一歩加速をつけながら登り始めた。
「おい、待て!一体何を考えているんだ!」
杉本の走る足音が聞こえてきた。私は夢中になって螺旋階段を登り続けた。途中で足を挫きそうになるも、なんとか手すりにしがみついてこけるようことはしなかった。上から「明梨ちゃん、どうしたんだい?誰かにバレたのかい?」とルルが囁くような声で訊いてくる。私は、さっきからのルルの不紳士な態度が脳裏にチラつくと、ムカついてきて何も答えないことにした。
「明梨!何が目的なんだ。」
ついに、杉本が螺旋階段の下まできた。彼は、私と同時にルルを見つけるなり、すぐにこう言った。
「ああ、そういうことか。君たちは、ここの門を開いて下界に降りようとしているんだな。別にいいぜ、そのつもりなら俺はお前らを咎めねぇ。但し、通報してお前らには地獄に堕ちてもらうけどな。」
杉本が1人でに高笑いする。私は、頭を抱えて、登るスピードを遅めた。ルルに伝えておくべきだったと後悔してももう遅い。ルルは、「クソっ!」と手すりを叩き悔しがるも、それでもなお登るのをやめなかった。
「但し、一つだけ助かる条件を出してやる。教えて欲しいか?」杉本に嫌な声が聞こえてきた。
「教えて欲しいわ。何?」私も試すような嫌な口調で訊き返した。
「そうか。教えて欲しいか。だけどな、これは明梨だけが助かる方法だ。上の男は助からん。それでいいなら、教えてやるぜ。」
「ふ〜ん、いいわよ。」
「まて、ふざけんな!それはダメだ!」上からルルが怒鳴った。
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