第27話
私は1人車を降りると、検問所の管理人室に向かって歩き始めた。管理人室には、年配の男性が1人いて、ガラス張りの窓から周囲を見渡していた。彼は私に気がつくと、ガラス窓をスライドさせて、窓の淵に腕をのせた。
「車かい?新人の子だよね。」
「はい、後ろのワゴン車を中に入れたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ちょっと待ってね。ここにICカード通してもらうから。」
彼は、本立てに挟んであったバインダーを手に取り、数回ページをめくると何やら書き物を始めた。書き終わると、そのページの上から下までにざっと目を通した。
「ICカード出して。いつも首から掛けている名札あるでしょ?あれだよ。」
彼は何してんの?といった嫌な目で私のことを見た。
私は、慌てて自身の体を触る。えっとどこにしまってたっけ。ポケットに手を突っ込んでみた。ぐしゃぐしゃの名札が掌に現れた。
「はい。ありました。これでいいですよね?」
私は名札を彼に見せるも、彼はそれをチラッと見ただけですぐにバインダーに目を落として何も答えてくれなかった。私は、名札をひっくり返したり中を取り出したりして、どこにICカードの機能があるのか探ってみた。実際に中には、名前の入った二つ折りの薄い紙に挟まれている分厚いカードが入っていた。そのカードを取り出すと、そこには名前と死年月日、顔写真が入っていた。
「これでいいですか?」と私がそれを見せびらかすように管理人に向けると、彼はすぐにハンドスキャナーで読み取って室内のモニターを確認した。キーボードをカチカチと叩いて、最後にマウスでワンクリックする。すると、鉄のゲートがガコンと音を鳴らしてゆっくり道を開き始めた。
「それで、なんの用でここを通るつもりなの?」
ゲートのけたたましい開閉音の中、彼はぎりぎり私が聞き取れるくらいの声量で訊いた。
「母がこの世界に新しく来たので、職場の紹介をしようと思って。他に乗ってるのは、私と母の友達です。」全てカスタードさんとルルから教えられた言葉だった。
「社会見学みたいな感じね。」彼はそう言いながら、再びさっきのバインダーに書き物をした。
気がつくと、私のすぐ後ろにワゴン車が迫ってきていた。
カスタードさんが顔を出して、「明梨乗って!」と叫んだ。私は、名札とICカードをポケットにしまうと助手席に座った。ルルは、私が車を離れている間に三列目に移動している。
ゲートが完全に開くと、ワゴン車はゆっくりと中に入っていった。ゲートを完全にくぐり抜けると、ある程度のスピードで、門に向かって走りだした。施設内に詳しい私が指示を出して、カスタードさんがそれに従ってハンドルを動かすという構図だ。施設はややこしくて広い。途中何度か道に迷ったが、特にこれといったトラブルもなく門にたどり着かことができた。
たどり着いたのは着いたのだが、門はしっかり閉ざされている。近くで待っていてくれているはずの作業員の姿は全く見当たらなかった。
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