第26話

 ブーン。カスタードさんは、窓を開けて車から上体を出した。 

 「ゴン、ジン、乗って!」

 大男たちは、ドアを開けて車内に上がり込むと2列目のシートに並んで座った。

 「ゴン、ジン、ごめんね。ちょっと急いでるの。細かい話は後よ。」

 カスタードさんは、すぐにエンジンをかけると、いきなりアクセルペダルを思いっきり踏み込んで車を急発進させた。パーキングエリアを出る前に何人、匹かの生き物が道路を横切ろうとしてワゴン車に衝突しそうになるものの、カスタードさんの天才的なハンドルテクニックでかわしていった。

 道路に出ると、ワゴンは来た道を引き返していった。相変わらずのスピードで走る車。変わったのは、前に大男が2人座って、カスタードさんの顔がルームミラー越しに拝めないことだ。運転手の顔が見えないと、プラスでちょっとした恐怖心が芽生える。私は、黙って母の方をチラッと見てみると、偶然彼女もまた私の方を見ていて、私たちは目が合った。彼女は私に向かって微笑む表情を見せた。そして、私の耳に口を近付けると「あんた、怖いんでしょ〜。」と馬鹿にする口調で言った。「べつに?」私は即座に彼女の顔から距離をとり、彼女の目を睨むようにして見つめた。

「変わらないわね。」母は、口元を覆って笑いながらそう言った。そんな彼女に、私も釣られ笑いした。

 しばらくすると、バイブ音とエーデルワイスの着信音が鳴った。携帯電話をいじる音がした後に、ルルが「はい!」と電話に出た。

 「カスタードさんは今、運転中です。はい、はい。」カスタードさんの携帯電話だったらしい。

 「今、まだロードにいます。ゴンとジンは乗せました。はい、はい。」

 「は?門を開けた?予定より随分と早くないですかねぇ〜。はい、はい。先に行くのは勝手ですけど、私たち間に合う寸法で言ってます?……まあ、緊急事態なのは分かりますけど。はい、はい。カスタードさんに伝えておきます。」

 携帯電話が閉じられる音がした。

 「カスタードさん、あいつら門開けましたぜ。何人か、作業員残しとくって言ってましたけど、本当に残っててくれるんですかね。」

 「開門、随分早いわね。まだここから1時間くらいはかかりそうよ。いざという時は強行突破しかなさそうね。そうなったら、頼むわね。ゴンとジン。」

 多分、カスタードさんはルームミラー越しで大男2人に微笑んでいたと思う。言い方的にそう感じた。

 一方の男が「任せてください、カスタードさん。恩人のカスタードさんのためなら、何でもします!」と返した。もう一方の男も「おう!」と相槌をうった。

 「頼りにしてるわ。」カスタードさんはそう言うと、さらにスピードを上げた。

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