第23話
ゾロゾロと生き物たちが門をくぐり抜けて、こちら側に入ってきている。私は、目をいっぱいに動かして所々にいる人間の姿を追いかけた。やはり、死んだ者の世界ということもあり、老人の数が圧倒的に多かった。さっきから老人が連続してやってきていて、ついつい軽視しがちになっていたのだが、よく考えれば私のお母さんももう初老に近かった。
「まだ、来てないか?ママは。」
ルルが小声でそう言った。私は、小さく頷いた。カスタードさんがポーズを変えた。
さらに待った。夏の虫みたいに、新人の塊に終わりが見えない。恐らくカスタードさんが来た時と比べると数倍は多いと思う。待ち時間が長ければ長くなるほど、私は不安に段々と大きなものになっていった。
「私やっぱりいい。絶縁状態だったし、わざわざ死んでから会う必要もないよ。」
私は顔を下に向けて門に背を向けるとそう言った。
「そんなことないだろ。明梨ちゃんに会いたくてわざわざ後を追うようにこちらにやってきたんだから。会ってやってくれ。これで会えなかったら、ただの死損だろ?」
「そうよ、明梨さん。なにがあったか知らないけど、死んだ者ってのは案外生前のぎくしゃくを持ち込まないのよ。どうでもよくなる人が多いみたい。」
ルルを援護するようにカスタードさんがそう言った。そんな一方で、彼女の目は常に門の方に向いていた。私はそんな彼女を見て、彼女の目つきを見て、とてもカッコイイなと思った。
「ほら、また1人女性が入ってきたわよ。」
カスタードさんの呼びかけで私は目先を門に戻した。カスタードさんが言っていた女性を探す。私のお母さんに雰囲気が少し似た女性が見つかった。私の挙動でカスタードさんが勘づいたのか、「来たの?行ってきていいわよ。」と合図を出した。私は、頭を下げると、急いで女性がいた方向に向かって走った。
前方に象が現れて私は終始戸惑った。さっき上から見ていた時は、象なんかいなかった。私はハッと気付いて、さっきまで走っていたベクトルに象の進行ベクトルを足した方向に向かって走り出した。読みは当たり、私は目的の女性に会うことができた。
私は、「すみません。」と言って女性の横に立った。女性はビックリして私を見上げた後、歪んだ顔を戻して私の母、町子の顔になった。
「なんでしょうか?」と問う彼女を無視して、私は懐かしい母親の顔に見惚れてしまった。重心が後ろ向きになりながら、私は自然と目から涙が溢れ出てきて、そんな私の涙目を見て母はもらい泣きしそうになっていた。
「あなた、もしかして明梨?ねぇ、明梨なの?」
私は頷いた。母は、その瞬間子供のように涙を流す反面、体勢は崩さずにしっかりと地に足をつけていて、なんだかそれが今の彼女を物語っているようでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます