第22話
気がつくと、私のまわりにはひまわりのワンピースとジーパンが身につけられていた。ワンピースは左側だけジーパンの中に挟み込まれている状態だ。
「あの〜、これ派手じゃないですか?私には似合わないと思うのですが…。」
「そんなことないわよ。あとね、サングラス。あなたにきっと似合うわ。」
カスタードさんは、ガラスが茶褐色のサングラスを生身で差し出した。私は、危険物を取り扱うように受け取ると、慎重に装着した。
「ルルどう?」
私は、そう言いながらルルに正対して腰に手を当てたポージングをとった。
「案外ノリノリだな。いいんじゃない?俺は嫌いじゃないよ。」
ルルの表情は無に近いものだったし、声のトーンもほとんど抑揚のないものだったので、私は判断を下すことが出来なかった。
「そんなことより、もう10時よ。お母様がいらっしゃるんじゃない?」
カスタードさんの白い歯が帽子の影で、キラリと光ったように見えた。
私は急いで、広場に戻った。広場の時計塔はちょうど10時を示している。視線を下げたのと同時に巨大な観音開きの扉がゆっくりと動きはじめた。
お母さんとのお別れは、10年前に遡ることになると思う。正確な日や曜日は覚えていないが、大体年数はそれくらいだったはずだ。
当時はルルも死んでいて、家族三人暮らしだった。30になる年だった私は、仕事場にも十分に慣れていてむしろ大人の余裕を持ち、嫌な性格も学生時代よりかは多少落ち着いていた。
会社の同僚で結婚していないのが私だけになったところに多少のネックを感じていたが、結婚は25の時に諦めていただけにダメージは少なかった。ただ、親からは日々結婚しろといった内容の説教じみた文言が飛んできていた。親としては、なんとしても結婚して孫の顔が見たかったらしい。私が毎回、結婚には興味ないと突き離すと、父は黙りこみ、母は泣きだすのがお決まりだった。私は、自室に閉じこもり、日記みたいなものを書いていた。その日あったことをただ綴るというよりも、愚痴に近いものをストレス発散に殴り書きしているような感じだった。その当時は、特に親子関係によるものが多かったはずだ。酷く憎しみを込めた字面が並ぶ様は、もはや呪いの書といっても過言ではなかっただろう。
バカだった私は、その呪いの書をお母さんに渡してしまった。ページをめくりながら、顔を歪ませる母親の表情は今でも忘れることが出来ない。しかし、あれはお母さんサイドにも問題があったと思う。
我慢に耐えに耐えた私は、三十路を迎える誕生日の家族パーティーでまたもや結婚の話を持ちこまされた。お父さんがお見合いと称して、一枚の写真を差し出した。私はそれを受け取り、中を覗いてみた。カメレオンが写っていた。
「だって、なかなかいなかったんだよ。いや、明梨が決して需要ないとは言ってないぞ!」
私はブチギレて、自室に向かった。後ろから、お母さんの声で「違うの明梨。あなたも一生1人だったら寂しいかなって思って。」と必死に引き止めようとしている。私はそれを無視して、呪いの書を持って帰ってきた。
「私がどれだけあなたたちに苦しめられてきているか知っているの?!」
私はめんこのように書をテーブルの上に叩きつけた。
私が家を出るのは時間の問題だった。
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