第20話
ルルが私の部屋を訪れたのは、朝の8時だった。彼は田中さんと供にやって来て、ドアを開けるなりすぐに私を手招きで呼びよせた。
私が廊下に出ると、すぐに田中さんから注意喚起があった。
「今日は特別休みにしておいたからな。夜までには戻るんだぞ。時間制限はないが、遅くなりすぎると入れてやれん場合がある。」
田中さんの発言が終わる前に、ルルが歩き出した。私は言葉を発さず、会釈しながら田中さんの横を通り過ぎて、足早のルルについていった。
「楽しんでおいで〜!」
背中の方から、田中さんの大きな声が聞こえてきた。
検問所を抜けしばらく歩いた後に、工具入れを持った男とすれ違った。ルルとその男は簡単な挨拶を交わし、ルルの方から何やら怪しい物を男のポケットに入れる。男はそれに対して反応する素振りを一切見せず、歩くスピードを保ったまま先を進んだ。ルルが背中を向けながら、カッコよく右手を上げて別れを告げる。工具入れの男の方を見ると、彼もまた片手で返事しているのが分かった。
最寄りの駅から電車で40分、私がこの世に来て初めて訪れた懐かしの地に降り立った。
駅のホームで私が少し感傷に浸っていると、ルルが私の腕を引っ張って雑踏の中に連れ込んでいく。色んな生き物の間を縫うようにして改札を出るとすぐに、巨大な門が堂々とそびえ立っているのが見えた。
「死んだものが通る門、懐かしいだろ。女神と来世の話をした後にここをくぐるんだったかな。明梨ちゃんのママがここをくぐりのは確か予定だと10時だったかな。」
ルルは自身の腕時計を見た。
「まだ、30分ある。どうしよう、ここで待ってるか?どっかの喫茶店に入るのもありだが。」
「大丈夫。ここで待ってるよ。だってここ懐かしいし、ちょっとでも早くお母さんの顔見てみたい。」
私は近くの段差に腰掛ける。
「そっか、そうだよな。腐っても親子だ。俺はちょっとお茶買ってくるからここで待っててくれないか。」
私が門を見つめながら頷くと、ルルはその場を後にした。ルルが完全に見えなくなると、私は一人でため息をついた。
はぁ〜、どうしてこんなところに来てんだろ私。もう会いたくないと思っていたのに。死にかけの時だって連絡さえしなかったし、なんなら声も聞きたくないと思っていた。でも、完全に会えないと思うと寂しくなる。話さなくてもいいから、一目だけでも見てみたいかも。
予告なしに、巨大な門がゆっくり動いた。真ん中に細い線が入り、それが徐々に太くなる。しまいには、その線から人影が現れた。しばらくすると、その人影は帽子を深く被った女性であることが分かった。女性だというのは断定出来ないが、服装からレディーの雰囲気がしたのでそう推定した。
彼女が門の隙間を通って、こちら側に入ってくる。その彼女に続いて、ぞろぞろと大量の生き物が姿を見せる。しばらくすると、彼女を頂点にした綺麗な逆三角形が拝めた。
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