第19話

 「そうだけど、問題ある?」

「なくはないが、あるっちゃあるな。」

「どういうこと?」

「あれはみんなのものだ。みんなの日頃の勤労を労って特別に配られているものだ。ここ最近、妙に減っているそうじゃないか。お前ばかりがとって良いわけないだろ。」

「嫌味のつもりなのかもしれないけど、とってきたのは私じゃないわよ。心美っているでしょ?ほら、鈴木さんとこの。お菓子の件なら、彼女に言ってよね。」

 「あ〜、彼女ね。じゃあ、また鈴木に言っておくよ。」

杉本はそう言い残すと、部屋を出て行った。デスクを揺らしたことの謝罪がなく、私はイライラが残った。


 次の日、久しぶりにルルが私の部屋を訪問してきた。軽い挨拶を交わすと、彼は向かいの席に座り胸ポケットから何かを取り出す。一通の封筒を[明梨ちゃんへ]の文字を私向きにして、デクス上に置いた。

 「母親が死んだそうだ。」

 私は一瞬何を言っているのか理解できなかった。

 「死因は自殺らしいな。もしかしたら、明梨ちゃんの死が原因かもしれん。」 

 「お母さんって、私のお母さんのこと?絶縁状態に近かったから、私の死を苦に自殺するとは思えないな。」

 「絶縁か。何があったのか知らんが、明梨ちゃんの死後すぐに自殺したんだ。関係ないとは言い切れないだろ?一度でいいから、会ってやってほしい。それの日取りを今日は決めたくてな。」

 ルルは、胸ポケットから今度はメモ帳とボールペンを取り出した。カチカチっと鳴らして、メモ帳を捲る。もう一度、カチっといわせて、私の方を見た。

 「いつでもいいわよ。どうせ、単純作業やっているだけだし。」

「なら、明日なんかどうだ。明日なら、お母さん、町子さんの手続きも完了してこちらの世界に入ってきているだろしな。」

 「ほんと、いつでもいいわよ。ルルに任せるわ。」

 ルルは、メモ帳に殴り書きで日取りを記録する。書いたところを一度見直してから、メモ帳を閉じて胸ポケットにしまった。

 ルルの顔つきに凄みが加わった。声のトーンを下げてこう言った。

 「それで、どうなんだ。施設偵察は。まあ、うちでも大体のことは調べてあるがな。職員の動き、特に田中所長の1日のルーティンはわかるか?」

 そうか、そんな話あったな。

私は首を捻った。

 「そうか、しっかりしてくれよ。本来なら、今日実行予定だったんだ。それを明梨ちゃんと母親に会わせるために、1日ずらしたんだぞ。まあ、いい。今日中に、仲間の半分をここに潜入させる。残りは明日、俺と明梨ちゃんも含めて、明日中に全員で門を突破する予定だ。」

 ルルはそう言い終わるとすぐに立ち上がって、ドアの方に向かって歩き出した。ドアノブを捻りながら、こう言った。

 「明日の明け方迎えにくる。それまでに身支度を済ませておけ。」

 彼の声は廊下にも伝わって、余韻が長めに響き渡った。

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