第17話

 私の部屋に、心美が遊びにくるようになった。時刻はきまって時計の単針が12をさす昼頃で、心美は自由に取って良いお菓子をよくポケット一杯に詰め込んでやってくる。彼女は、毎回部屋に入るとすぐにお菓子をデスクにばら撒いてスッキリした顔をする。

 私は彼女の行動理念について、3回目でやっと尋ねてみることにした。

 その前に、ひとまずグミを一つ手に取り、生温かい包装を破って中身を口に放り込む。モゴモゴしながら、心美に話しかけた。

 「なんでここに来るの?」

 キャンディーの包装を破っている最中の心美がビックリした顔で私を見る。

 「明梨がいるからじゃん。友達でしょ?」

 心美はそう言ってるが、実際ここの仕事は途中で友達の部屋に行けるほど暇なものじゃない。それは心美も同じはずだと思う。

 「心美は、仕事何してるの?わざわざ私のところに来る必要ある?」

「え?なに?私責められてる?仕事は明梨と多分一緒だよ。転生が決まった生き物たちの書類に判子を押すだけの仕事。まあ、私は仕事速い方だから、遊びにくる時間があるの。」

 私はお菓子をデスクの端に寄せて、仕事を再開する。

 「明梨は仕事丁寧だよね。私、尊敬しちゃう。」

私は顔を一瞬だけ上げると、「煽ってる?」と少し冷めた口調で問うた。

 「煽ってないよ。本当に丁寧だなって思ってるだけ。」

 「ふ〜ん。」私は、わざと大きめにそう鼻を鳴らすと、手捌きを速めた。

 「明梨はさ、杉本さんとは何もないよね?」

 心美の突然の問いに、私は判子と書類の間に親指を挟み込んだ状態で判を押してしまった。

 「何もないわよ。逆にあるわけ?鈴木さんだっけ?」私は歪んだ紋章に二重横線を入れて、その隣に新しく判子を押した。

 「私、鈴木さんに突然告白されて。どうしたらいいのか分からない。」

 私は判子をデスク上に放り投げて、顔を素早く上げた。

 「それって、恋愛の告白?他の告白とかじゃなくて。」

「恋愛の告白だよ多分。好きだ、付き合ってって。前世、全く恋愛してこなかったからどうすればいいのか全然分かんない。」

 「そっか。」私は、顎に手をやる。

 「私、鈴木さん以外の人にも告白されて。」

「は?誰?」

「田中さんとA2班の飯田さん。田中さんからは、入社当初からずっと好きだって言われ続けていて、飯田さんは一昨日に突然。」

 「た、田中さん?ちょっと待って、そういう人だったの?」

 「うん。それでこの前、田中さんに私たちのキス見られたじゃん。あの一件以来、私たち付き合ってるって噂たっているんだよね。実は。でも、そのお陰でここ数日間は田中さんからのアプローチがなくてスッキリ。明梨には感謝しているよ。」

私は頭を抱えた。

 「もしかして、毎日ここを訪れているのも?」

「そう。」心美の顔は何故か嬉しそうだ。

 私はさらに頭を抱えた。

 ややこしいことになってるぞー。いやちょっと待て。なんで、こいつばかりモテているんだ。私もとびっきりの美女だぞ。

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