第16話
心美は、急いで部屋に戻ると室内の片付けを始める。10秒くらいで帰ってくると、立ち往生している私の腕を引っ張って、足音とは逆の方向に走り出した。
コッコッ、私の靴から音が鳴る。自身の足取りに注意を緩めない心美に対して、私は心美の速度に適応することが出来なかった。
「待って待って、急に…」
「ちょっと足音立てないでよ。」
「だってそんな急に引っ張られたら…」
「引っ張られることなんか分かっていたでしょ?ボーッとしてたんじゃないの?」
2人が言い争っているなか、足音の接近は速まっていた。
「こうなったら、最終奥義よ。明梨、私の顔をよく見て。」
私は、少し低い位置にある心美の顔を覗き込むようにしてみた。
その瞬間、心美は私の首に腕を回して、私の唇と熱い接吻を交わした。私はビックリして、後ろに首を引っ張りながら、ムリムリと首を横に振る。
「気持ちよさそうにして。こうするしかないの。」
嫌がる私に、心美は強引な2度目の口づけを交わした。
「おーい、そこにいるのは誰だ?」
田中さんの声が聞こえきた。この声のすぐ後に、田中さんが廊下に姿を現した。心美はそれに気付いて、接吻をよく熱くエロくする。
私は田中さんの声と心美の様子から、嫌がる素振りをやめて、さも感じてますといったような素振りに変更した。
私が乗り気になったと思ったのか、心美は舌を出して、私の口の中にそれを強引に押し込んだ。
「おーい、そこで何やってんだお前ら。」田中さんの腑抜けた声が聞こえてくる。
私は、ぬめっとした心美の舌に自身の舌を絡めた。
「おいおい、恋愛は自由だけどよー。ここではするな。ここは俺の部屋だぞ。」
田中さんがそう言いながら、私と心美を引き離した。心美の腕は簡単に解かれて、私たちはすっと離れる。私と心美の間に白い線が伸びて消えた。
「まさか明梨と心美だとはな。2人とも真面目な方だとは思っていたんだけど。まあいいや、今回だけは見逃してやるよ。2人ともすぐに仕事場戻って再開しな。」
心美が俯きながら階段に向かって歩き出した。私はそれを全くそのまま真似る。2人が階段を降りきったタイミングで心美が口を開いた。
「良かった良かった。私、キスなんて前世でしたことなかったから、上手くできたか心配だったよ。どう?私の唇気持ちよかった?」
う〜ん。気持ちよかったといえば気持ちよかったのかもしれない。なんせ、私もキスなんかしたことないから。新鮮味の方が強かったかな。
「何考えてるの?いやらしいこと?」
心美がいやらしい目でそう言う。そういう彼女の表情は、正直女の私ですら可愛いと思ってしまった。男子なら、確実に惚れてしまうだろな。
「明梨はキス初めてなの?」
そういえば、なんでこんな可愛い子がキス処女なのだろうね。男子なら、みんな欲しがるだろうに。
「ねぇ、聞いてる?」
あ、そっか。前世は確か地域一の不細工で…。
「ねぇぇ、ふざけないで!私の話きいてよぉぉぉ。」心美は、私の肩をさすりながらそう叫んだ。
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