第15話
いつもの仕事部屋に一人でいると、突然ドアがノックされた。
私は杉本かなと思い、無視し続けていたのだがそのドアは一向に開かれない。いつもの杉本なら勝手に入ってくるのに変だな重い荷物を持ってて開けにくいのかな、と思いこっちから開けてやることした。
「なに〜」とダラけた口調で言いながら、ドアノブをひねる。廊下に立っていたのは、部屋のネームプレートと手に持っているメモのようなものを見比べている心美だった。
彼女は、私が現れるや否や「良かった」と安心するような表情をとる。私は意表をつかれた気分で、彼女とは対極の顔をした。
「明梨ちゃん、久しぶり。この前言ってた話なんだけど。ちょっと部屋の中入っていい?」
私はなんのことだかすぐには分からなかったが、生返事をしつつも彼女をドアの向こう側に迎え入れた。
ドアを閉め切ると、早速心美は切り出す。
「田中さんの部屋から徳の横領がなされてないか、今から確かめる。田中さんの部屋も知ってるし、田中さんの部屋がこの時間帯開放されているもの分かっている。強制はしないけど、明梨ちゃんは私とくる?」
「それバレたらどうするの?徳減らされて損しない?」
「大丈夫よ。明梨ちゃんには見張りに立ってもらうだけ。もちろん証拠資料が見つかったら、見せてあげるよ。」
私は少し考え、OKのポーズをとった。
心美に連れられて、私たちは隣の建物に移動した。何も言わず彼女は、階段に足を向けて2階に上がっていく。私はそれに続いた。
2階の廊下に出ると、全開にされているドアが一つ目に入った。心美は早足でそのドアに近付き、私に目線の合図を送る。私も、足音に気をつけつつ小走りでドアまで近寄り、彼女の指示を待った。
「私が今からここに入るから、明梨ちゃんは足音や物音があったら、すぐに知らせて。」
私が頷くと、心美は部屋に入ってすぐに入口付近の電源スイッチを押して、部屋を明るくした。
私は番人のように、足を肩幅よりも少し広めに開き、背中を壁にピッタリくっつけた。
しばらく間ドアの向こう側からガサゴソと音がした後、心美がこっちに歩いてくる足音が聞こえてきた。見つかったのか。闇を暴ければ、転生も早まる。私は、忘れていたくらいどうでもよかったことに、いつの間にか期待を込めていた。といっても、その前にルルと一緒に脱走するんだろうけど。
私の前に出てきた心美の顔は思っていたものとは違った。青色のファイルを広げながら、その上には暗い表情をしている。
私は「どうしたの?」と尋ねてみた。すると彼女は「横領なんかされていなかったみたい。元々徳がほとんど貰えないっぽい。」と悲しげな顔で返事した。
突然、階段を上がる靴跡が鳴り響いた。私と心美は目を合わせ、お互いが冷静でないことを知った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます