第12話

 「おはようございまぁーす。」

杉本の怒鳴り声で、検問所の中から警備員の服を着た男が慌てた様子で出てきた。男は見た感じ、もう初老を迎えているおじいさんだ。この年になっても働き続けていることに私は恐怖を抱いた。

 男は杉本に対して、愛想笑いのような会釈をする。杉本は男に手を振った。私も続けて手を振った後会釈した。

 「ここが一つだな。もし外に出たいならここから出るんだぞ。」

杉本が白い歯を見せながら、後ろを振り返っている。その間は、彼の足運びが遅くなった。

 「次行くか。次はちょっと遠いぞー。ちょっと早足になるからな。変な妄想してニヤニヤしてたら、置いていかれるぜ。」

 杉本の意地悪そうな笑みに、私は言い返しつつも、恥ずかしさから口元が緩んでしまった。

 「ちょっと!大丈夫よ。私を変な女としてみてるでしょ!」 

 私の言動を見て、杉本の笑みが一層増した。すぐに首を戻すと、スタスタと歩みを早めた。

 杉本の足取りは確かに速かった。さっきまでのようなフェンスに指をかける遊びなんかをやっている暇はなかった。

 しばらく歩くと、前方から一組の男女がフェンス沿いに歩いてくるのが見えた。近くまでくると、男は筋肉質、女は華奢な体に厚底の靴を履いているのが分かった。

 「やあやあ、鈴木君。」

 杉本は検問所の時と同程度の声量で怒鳴った。

 「杉本か。お前なに同僚はべらせてんだよ。仕事しろ仕事。」 

 「鈴木こそ、女と歩いてんじゃねーか。仕事しろ仕事。」

 鈴木は私の名札と偶然目が合って、顔を私の方を向けた。

 「お、そこのお嬢さん、明梨ちゃんじゃないかい。ちょっと話したいことがあるんだがいいか?」 

 鈴木は、私の前で立ち止まり、隣の厚底女を紹介する。厚底女は、低身長で目がくりくりしているいかにも男が好きそうな見た目をしていた。

 彼女は私に生体し、「ここみと言いますよろしくお願いします。」と言って会釈した。彼女が上体を起こすと、名札に心美の2文字が入っているのが見えた。

 続けて「明梨といいます。よろしくお願いします。」と私は返す。自身の名札を指差しながら、会釈も返した。

 「こちらの心美ちゃんね。明梨ちゃんと同時期に入った新人さん。しかもね、転生志望先は明梨ちゃんと同じ美人がいいんだって。2人とっても似てるから仲良くしてやってよ。」

 心美の方は、少し照れるように笑っている。私は手を差し出して握手を求めた。

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