第11話
私は杉本に連れられて、施設のまわりにあるフェンスをそってグルリと一周することになった。
これは別に私から頼んだものではなく、杉本の提案によるものだった。いきなり彼が仕事中の私の部屋に入ってきて、命令口調で連れ出したのだ。
「俺のあとをついて来い。」
彼はこれだけ言って、無言のままひたすら前を歩き、柵の横まで歩く。振り返っている彼の真正面に私が立ち止まると、しばしの沈黙が流れる。
「遅いぞ、このあま。」
いきなり吐かれた暴言に、私は頭の上にハテナを浮かべた。
「まあいい。案内してやるから、感謝しろよな。俺が人のためにやるなんてことそうそうないからな。」
数秒合っていた目を彼は逸らし、上部に有刺鉄線が3本引かれているフェンスの道筋を遠望する。
男の上司ってこんな変な人もいるんだ、と私は思った。
杉本の「こっちだ。」の声で、また無言のまま私は彼のあとをついていくことになる。まるで私が存在していないかのように、彼はただ真っ直ぐこれから進む道のりを見つめていた。
気温は恐らく20℃程度。長袖一枚がちょうど心地良いくらいだと体が教えてきた。日差しは強くなく、薄い影を作っているくらいだ。
私は網状になっているフェンスを指で一定間隔に弾いて、手持ち無沙汰な手を癒した。パチンパチンと音を鳴らせば杉本も流石に気にするかなと思ったが、彼は相変わらず真っ正面を見つめているだけだった。
杉本は歩きながら、首を動かして周りに人がいないことを確認した。彼はいきなり立ち止まると、私の方に体を向ける。ニヤリと笑って、強引に私をフェンスに押しつけた。彼の手は私の肩あたりを押さえていて、私は上半身が自由に動かせない。私は、自身の両肩に一度目をやった後、恐怖を瞳に込めながら彼の顔を覗き込んだ。
「明梨〜。俺はお前と初めて会った日からいつかやりてぇなと思ってたんだ。クックックッ。全くエロい体していやがるぜ、顔もラテン系ってぽくて俺の好みだしな。」
彼はそう言うと、舌舐めずりして私の顔から胸あたりまでを舐めるように注視した。
彼は私の胸ボタンに手をやり、上から順に一つ一つ外していく。私は恐怖のあまりに何も出来ず、彼のなすがままに従った。
三つ目のボタンが外されたのと同時に、フェンスの外側から私を呼ぶ声が聞こえてきた。私が声のする方へ顔を向けると、ルルが必死な表情でフェンスを叩こうとしているのがうかがえる。ルルは口を大きく開けて、訴えかける文句を連ねているようだ。
「おい、お前!明梨から離れろ!そんなことが許されるとでも思っているのか。立派な犯罪行為だぞ。これ以上続けるなら、貴様を通報するからな。」
ルルは、大声を出しながらフェンスを叩いているため、被害者の私でも相当うるさく感じる。
しかし、その一方で杉本もルルに注目し出したので、私はその隙に彼の手から逃れることができた。
杉本はしまったといった表情をし、私の腕を掴もうとするも、彼の手の平はするりと私の袖を滑った。私は一目散に来た道を走り出す。荒い足音が私を追ってくるのがわかった。
10数メートルで私は杉本に押し倒される。彼は私のふくよかな胸部に手を伸ばすと、添わせるようにピッタリと掌を密着させた。
すぐそばまで付いて来ていたルルがまた大声を上げる。杉本はイラッときたのか、フェンスを片脚で思いっきり蹴った。ルルも負けじとフェンスの同じ部分を蹴り返した。すると、杉本も蹴り返す。2人は交互にやり合って、終わりの見えない争いが発生した。
ちょっとしたボヤ騒ぎに、施設内の職員たちは1人2人と外に出てきて、私たちを見て騒ぐ。2人の大男がこちらに走ってきて、私から杉本を引き離した。杉本は必死に抵抗するも、大男の一方が彼の腹にアッパーを食らわせた。
「おい、明梨?何ニヤニヤしてんだ。着いたぞ。ここはお前も最初通ってきただろう。うちに入るための検問所だ。」
杉本は不思議そうな表情で私を見つめている。私はフェンスに人差し指をかけながら彼の表情に一瞬茫然となった。状況が理解できるようになると、次第に恥ずかしさが込み上げてきた。
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