第10話 

 鈍い鐘の音が鳴り響き、門が開口された。音楽が流れ出し、道路の端に均等に並んでいるの私含む職員たちは皆一斉に拍手を始めた。

 田中さんの声で、無数の魂が一斉に進み出し、続々と門をくぐり始める。内側から、見送りしている私には、門の向こう側がどうなっているのかよく見えなかった。

 転生前だと、全ての生き物は等しく同じ大きさの魂になる。それらは全て薄い緑色をした人魂のような見た目で、地面の少し上から私の目線の高さまでをぎゅうぎゅうに浮遊していた。魂の集団が門の手前から何メートルにもわたって続いているので、視界はかなり悪い。しかも、魂は動くと妙な音を発するため、その場の状況を感覚だけで判断するのは至難の業だった。

 門へと進む魂の集団に少しずつスペースがうまれていた。

 私の向かいには杉本が立っていた。彼は拍手をやめて手を下におろしている。私も真似て手をおろした。すると、今度は杉本が私に気が付いて、手を胸元まで上げるとまた拍手を始めた。私は不思議に思いつつも拍手を再開する。

 最後の魂が門をくぐり終わり、田中さんの声で閉口が指示された。金属の擦れる重たい音がして、柵がゆっくり落ちていく。柵の下に付けられている刃がサクッと音を立てて、姿をくらました。

 また田中さんの声がして、道路に並んでいる私たち職員は皆、門に向かって歩き出した。

 途中で、杉本が私の隣に並び「拍手止めるなよ」と意地悪そうな笑みを浮かべて私に話しかけてきた。私はイラッときて、ダンマリを決め込んだ。すると、杉本が私の肩を軽く叩いて離れる。やり返してやろうかと思ったが、私にはやることがあったので抑えた。

 田中さんを中心に職員たちは輪になるように並ぶ。全員が集まりきるまでに、私は職員の数をかぞえていた。集まっているので32人、こちらに向かっている5人で合計37人。予想以上の人数に私は心の中で舌打ちした。

 全員が集まると田中さんは話し始める。

 「今週もお疲れ様でした。B1班はここで一旦、休暇に入ってもらいます。残りの班の方もA1班が戻ってくるまで、少々人手は足りなくなるとは思いますがよろしくお願いします。」

 輪にいる何人かが、あくびの声をもらした。次第に、流れ解散のように雰囲気になり、輪が乱れると帰る者もいればその場で道草食って隣の人と喋りだす者もでだした。

 私は仕事場に向かって歩いている杉本の姿を見つけ、彼に近付いた。

 「杉本さん。田中さんが言ってた班って何ですか?」

 杉本は私に気づくや否や、私を睨むような顔になった。

 「あ〜あ、あれね。うちって班ごとにどの建物に配属されるか決まってるんだよ。まあ、どの班も同じような仕事任されるんだけどね。

 今は、A1班が1ヶ月の休暇を終えて、返ってくる期間。それで、B1班が休暇に入る期間。A1のなかでも帰ってこない人がいるから、田中さんはああいった言い方してた訳ですよ。」

 杉本は目線を私から外した。私は彼に見られてないと分かりつつも、大袈裟に頷いて理解を示した。

 

 私の頭にはすぐに、休暇の節目が狙い目だという発想が湧き出てきた。

 ルルからもらったプリントをデスクに広げてにらめっこを始める。門の開け方は分からないが、ルルたちをこの敷地内に入れる作戦はすでに思い付いていた。

 ここの職場は制服がなく、完全私服制となっている。そのため、なりすましや変装は通用しない。しかしその一方で、休暇の節目は人の出入りも多く、紛れ込むもしくは何かの業者として潜入することは容易に感じた。

 ルルの仲間には家具屋で働いている者がいるらしい。ここの職場は彼の太客らしく、彼を使えば数人は潜り込むことができるだろう。しかし、ルルの情報によるとルルの仲間は合計で32人いるみたいで、とてもじゃないが家具屋の彼1人の力ではどうにもならない。

 そこで私が思い付いたのが、先に数名の業者を入れて、それぞれが同時に数人の仲間を別々の入り口に誘導し、警備を突破させるという作戦だ。同タイミングなら、警備員も反応に遅れ、隙を見せるだろうというのが狙いの根底に当たるものだ。

 突破してしまえば、正直いって人手の数は脱走仲間も職場仲間も大して変わらないため、そのまま門まで直行するのが可能な気がする。

 

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