第7話 上の世界で就職します。
確かに多かったような。しかし、そうでもない人も多かったような。
「年配の職員さんもいませんでしたか?」
「いますよ。なりたい見た目になったら、そこから徐々に歳をとっていくんですよ。でも、それは現実世界と一緒だから別に気にしないでしょ?」
そういうことか、と私は思った。人差し指を頬に当て目線を左上に向けると、未来予想図を頭の中でめい一杯に広げた。
「まあどんな選択であれ、悩みますよね。僕も前世で殺人を犯した手前、職員しないと転生先がほぼない状態だったので仕方なくやっているのですが。やっぱり、見知らぬ世界に足を踏み入れるのは怖いですよねー。」
「さ、殺人…ですか。もしかしてここの職員さん、そんな人ばかりなんじゃ。」
「そんなことないですよ。お金持ちの子になりたくてやっている人もいますし、スポーツ選手になりたくて運動神経抜群の子供を目指している人もいます。みんな人それぞれですよ。あなたもそうでしょ?頭の良くて、顔の良い女。」
「でも、元人殺しと隣合わせで仕事するわけでしょ?ここって死ぬとか生きるとか存在するの?」
「ここでは誰も殺せません。痛みもほとんど感じないようになっています。もし、サイコパスがいきなり現れて腕や足をもぎ取られたとしても、しばらくすれば傷口から徐々に再生されていきます。分裂した手足は自然消滅します。」
「それでもよ!人殺しの話なんか信用できないわ。その話は無しにして頂戴。」
「では、このままアフリカ象になるいうことでよろしいでしょうか?」
「待って。それ一択なの?人間がいいわ。出来るだけ好条件の人間にしてよ。」
「出来るだけと言われましても。かなり限られてきますよ。それに頭と顔のいい女性にならなくて良いんですか?折角、そのチャンスがあるのに。」
「だって怖いんだもん。」
私の一言に受付は腕組みをして少し考え込むと、またキーボードをパチパチっと叩いて再び顔を上げた。
「犯罪者がいない職場ありますよ。あの世とこの世を結ぶ門の開閉が主な仕事内容です。新たな人生の門出を祝うとっても素晴らしい仕事ですよ。」
「そこなら、善良な人生を送った者ばかりが集まっているんですか?」
「そうですよ。あなたの前世なら、内定頂けると思います。立派なデキモノ排除人として活躍されていましたからね。」
私が戸を叩くと、中から若い男が顔を出した。若い男は首から名札を提げていて、そこには杉本と表記されている。
「今日からここに配属されます、明梨です。あ、これ証明書…。」
私は慌てるように鞄からファイルを取り出して、中に挟まっている一枚のA4紙を抜き取った。一度、その紙に目を通してから、杉本に差し出す。杉本はそれを受け取って、「少々お待ちを」と言って奥に入っていった。
1、2分くらいで中年のおじさんが顔を出した。彼の名札には田中と表記されている。
田中さんは私と目を合わせるや否や、ニコッと笑って「入って」と首で促しながら言った。
私は中に入り、田中さんが進む方向に着いていく。途中で室内に入っていっため、私も続けて入室した。
ソファーが二つ、向かい合って置かれていて、その間にガラス張りのテーブルが設置されていた。田中さんは、奥のオファーに腰かけると、手前の方を私にすすめる。私がそこに座ると、田中さんはどこからともなく現れた数十枚にわたる書類をテーブルの上にのせた。
「ごめんね。前所長が転生したばかりでさ、俺も所長はじめてそんなに長くないけどね。」
そう言うと田中さんはニカッとした表情を私に向ける。
「えらい転生試験の点数が良かったんだっけ?すごいねぇ〜。満点なんて、そうそういるもんじゃないよ。」
私は謙虚に会釈した。
「頭の良くて綺麗な女性に新たな人生を見送られるって、すっごい嬉しいだろうな。長いことここにいてくれよ。きっとみんな喜んでくれるぜ?」
「いえいえ、転生先が決まったら、すぐにでも下の世界に向かいます。」
「そっか〜。その時は寂しくなるな。」
物言いが本当に寂しそうな人のそれだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます