第5話 私の初恋は失恋でした。
カワボの「やめ!」が教室中に響き渡った。
私はずーっと見ていたサインから目を離し、目の標準を彼女に合わせた。
「今から解答用紙と問題用紙を回収します。」
彼女の号令で、試験官たちは早足でプリントを回収し始めた。
彼らが回収し終わるまでにできた暇な時間に、私はまたサイン欄に目を落としてみた。
中学という大昔に考えたわりには今でもお気に入りの形だ。明梨の木のはらい部分がクルクル巻かれていて女の子らしさがでている。ここでは黒字にしかならないが、昔はキラキラの入った色ペンで描くのにハマっていた。
当時のことを思い出すと、よく初恋の映像が頭に流れる。最初で最後の恋。当時はブスだなんて認識があまりなかったため、意中の男の子に猛アタックしていた。今でも思い出すと、顔から火が出るほど恥ずかしくなる。
彼と出会ったのは中学2年生の時だった。同じクラスのサッカー部。スポーツ万能だった彼は次期キャプテンと言われていた。クラスではお調子者として男女問わず誰とも仲良くしていた一方で、頭も良く勉強も真面目に取り組んでいる姿勢が私のハートを鷲掴みした。
そんな彼だから、当然女の子ファンも多く、休み時間はいつも彼の側に女の子が1人以上いた。私も話したくて、席がなかなか近くなかったから接点を持とうと無理矢理なちょっかいをかけまくったのを一つ一つ鮮明に覚えている。ライバルからは後ろ指立てられて、結果的に友達が敵になるなんてこともあった。だけど、次第に彼から話しかけてくれるようになっていき、私はクラスで一番彼と仲のいい女の子になった。
しかし、とある事件がきっかけで私と彼は絶交することになる。
クラスでドッヂボールを体育の時間にすることになった。私と彼は敵同士で、私は彼と同チームになった女の子たちを羨ましく思った。いざ試合が始まると、敵チームの女の子たちは一斉に彼の後ろに隠れて、可愛い声で「守って」とほざき始める。人数が多くて隠れきれない女の子たちは、彼と一緒に逃げながら、彼が活躍すると黄色い声援を送る。
私も対極の立場にいながら、心の中では彼にエールを送っていた。声を出してキャッキャしたかったが、味方にどつかれると思い我慢した。
運良く彼同様、私も終盤まで生き残った。味方チームは私含めて残り3人、相手チームは彼含めて残り2人だ。ただ、彼の隣にいる男の子はヤンキー気質があり、怒ると怖い印象があった。私だけじゃなくクラスの子のほとんどは、普段その男の子を避けて生活していたと思う。
私は当てられるなら、その男の子ではなく彼が良かった。彼なら、優しく当ててくれる気がした。
ヤンキー気質の子にボールが渡る。その子は取り敢えずと、ラストレディの私に豪速球を投げ込んだ。私はとっさに目をつぶり、キャッチの姿勢はとったものの、もちろんとれるはずもなく、ボールは私の肩に衝突し落下した。味方の男の子が地面につく前に、ボールを拾ったお陰で私は枠内に留まることとなった。
正直言って早く外にでたかったが、ルール上仕方ない。私は身体の線を少し細めて、敵枠から数歩引いた。
ボールを持った男の子は、ヤンキー気質の子を見事当てて場外に送り出した。敵枠の残ったボールを意中の彼が拾うと、今度は私の味方2人が立て続けに彼に当てられて、場外に送り出された。
黄色い声援と、ヤンキー気質の子の罵声がグラウンドに響き渡った。私は白旗を顔色で示し、歩きながら彼に近づいていった。それを見て、彼も優しい笑顔を作り、投げる姿勢をといた。
「つまんねえぞ!」と雑音が聞こえるが、そんなこと知ったこっちゃない。私と彼は一本の白線を間に急接近した。私は、両手を広げてこう言った。
「当てて、悠人君になら当てられてもいい。」
男の子の雑音に女の子の冷ややかな雑音が加わった。
彼は「すまん。」と一言いれると、ボールを下投げで優しく放り込んだ。それがあまりにも優しく私は思わずキャッチしてしまう。その瞬間、外野から「当てろ!当てろ!」の大合唱。私は右手でボールをかかえると、それを上投げで思いっ切り彼に当ててしまった。
私たちの勝利が確定した。ヤンキー気質の子が外野から足音を立てて、私の胸ぐらを掴みにくる。私は必死に抵抗して腕をほどこうとすると、ヤンキー気質の子が耳元で真っ当でありつつも吐き気を催すことを言った。
「悠人がなんでお前みたいなブスを相手にしているか知ってるか?お前の明るくて、前向きな姿勢に惚れ込んでいるからだぞ。お前、最低だな。悠人を裏切ったんだ。もう絶交だぞ。」
私は目の前が真っ暗になった。頭がすーっとなり、体が傾く錯覚に陥った。
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