第4話 転生試験開始!!

 「はいっ!皆さんようこそお越しいただきました。こちらは転生試験の会場、となっております。教室番号はa-3となっております。お間違いないでしょうか?」

 響き渡るカワボに、吹き出す声が混じった。

 彼女は口を歪ませて、下唇を歯で挟んだ。鋭い目つきで、教室を見渡す。

 「大丈夫みたいですね。では、お次にですね、自身の受験番号と座席の右端に貼られております番号が同じかご確認お願いします。」

 彼女の後ろにスタンバイしている試験官の1人が、後ろを向いてニヤついたのが見えた。

 私は、無造作に私が置いた受験票と文字のはいったシールを見比べた。10桁の長い文字列を一つ一つ指さしで確認する。作業に慣れた良いところで、カワボが邪魔をしてきた。

 「確認できましたでしょうか?」

 7桁目まできていたのだが、途中でかぶりを上げる。

さっきと同じ後ろの試験官が今度は含み笑いを浮かべていた。彼はニヤニヤしながら私を見ているような感じがする。私は気味が悪くなり、胸の奥に不快感を感じた。

 彼女は説明を再開する。

 「大丈夫そうですね。それでは、試験の説明をさせていただきますね。

 試験時間は80分です。問題はマークシート式で100問。問題内容としましては、人間界の一般常識、マナー、エチケットに関するものが出題されます。

 合格発表は数十時間後、呼び出しでお呼びしますので、それまでの間はご自由にお過ごしください。合格の基準としましては、志望先が皆さんバラバラだと思うので、正確なことはお伝えすることが出来ません。

 よろしいでしょうか?」

 彼女は、かぶりを上げて、教室中を見渡した。全くの無反応な教室の空気に戸惑いつつも、「それでは始めましょうか。」と言って平静を装った。

 彼女の後ろにいた試験官たちが一斉に動き出し、教室の隅に敷かれていたレジャーシートをいじり始める。しばらくすると、中から紙の山が姿を現した。試験官たちは、それらを各自適量とり、受験者一人一人に配っていく。

 私の前に3種類の紙が置かれた。一つが解答用紙で残りの二つが問題用紙だ。薄らとインクが裏面に透けていたので、それで分かった。

 「皆さんの手元に3枚のプリントが配られたでしょうか?よろしいですかね?

 では、問題の解き方について説明します。基本的にペンや鉛筆といったものは必要ございません。念じて頂ければ、それが文字となって解答用紙に記されていきます。

 また、解答用紙の右下にですね、本人様確認のサイン欄がありますのでそちらもよろしくお願いします。サインは合格発表後の手続きに必要なものとなりますので、頭にしっかり入れておいてくださいね。」

 彼女は、自身の右腕をひっくり返してそれを見つめる。恐らく、小さな腕時計がそこに括り付けられているのだろう。

 彼女はジーっと腕を見続けて、唐突に「はじめて下さい!」と声を上げた。

 私は、3枚のプリントを同時にひっくり返して、それぞれの定位置を決定した。

 早速、問題に取り掛かる。私は小声で問題を呼び上げた。

 「問1: 家屋・部屋を借りる人が持主に預けておく保証金。これは礼金であるか?」

 いきなり難問である。私自身、一人暮らしはしていたのだが、このへんのことは面倒くなって説明も飛ばし飛ばしで読んでいたため、よく理解していなかった。

 一問目から飛ばそうと思っていたのだが、気がつくと、解答用紙の問1に答えが既にマークされていた。私はびっくりして、変な声が出ないように口を抑えた。

 バレないように、目だけを机の先の光景に向ける。私に注目している者は誰もいないようだ。

 心を落ち着かせて、二問目に取り掛かった。また、小言で問題を読み上げた。すると、また勝手に解答用紙にマークがついた。

 いよいよ気味が悪くなって、顔を一度伏せる。

 誰かが私の代わりに問題を解いている?

 そう思うと、さっき私を見て笑っていた試験官の顔が頭に浮かんだ。少し歳を重ねた、中年おじさんの顔だ。何度か思い返してみると、そのニヤつき顔がどんどん激しくなっていくのが自分でも分かった。

 もう考えるのはやめよう。

 そう思い、顔を上げて3問目に目を通した。


 結局、100問目までその謎の力だけで乗り切ってしまった。乗り切ってしまったというより、一問も私には解けなかった。

 自分の馬鹿さ加減に呆れ果ててしまったが、解答は一応済んだので残りの20分を気楽に過ごすことにした。

 あー、そうだそうだ。と思い、右下のサイン欄に目を通す。勝手に見知らぬ意味不明な文字が出現していたので、それをかき消すかのように、私が小学生の頃に作った明梨を少し崩したサインを念じた。想像通りの文字が出現し、私は再び気楽になった。

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