第3話 転生試験

 口をとんがらせている私を見て、女神は口を開いた。言葉を発そうとするが、一旦やめて2回目の開口で出てきた。

 「転生先は10日以内に決めないといけないんだけど、もし良かったら転生試験を受けてみたら?」

「転生試験?」私はとっさでアホ声で返答する。

 「転生試験ってのはね、前世で例えば顔が良くなかったり、根本的な性格が悪かったりすると徳を積めにくいじゃん?あなたみたいにね。そういう方は、顔が良かったり頭が良い人と比べて不公平でしょ?そういうのをなくそうってことで作られた新しい制度なの。でもね、結構難易度高いから私はあまりおすすめしていないわ。時間の無駄ですもの。」

「転生試験!私受けます!!来世、微生物なんて嫌よ。絶対聡明な美人がいい!!」

 「う〜ん。私はオススメしないけどなぁ〜。」

 女神は渋々ファイルから一枚の紙を取り出して、そこにボールペンで何箇所を印をつけた。そして、少し考えるそぶりを見せると、紙の向きを反転させて、私が見やすいようにした。紙の上部に転生試験志願書と記されている。

 「こことここに前世の名前書いて…。で、志望転生先と志望理由。私の名前は書いておいたから。あと、転生試験っていうのは、生き物への知識だったり、社会的常識が問われるからそういったところの復習をしておいてね。」

 私が志願書に目を通しきる前に、女神は消失してしまった。机ごと消えてしまったため、志願書はヒラリヒラリと大気圧をサーフィンしながら、降下していった。

 

 転生試験受付場には、多くの志願者が殺到していた。私含め志願者は皆、前世の姿のままだ。そのため、私の前には鹿やカエル、目に見えないレベルの生物が並んでいる。私はその微生物を一回順番抜かししそうになって、怒られた。どうやら、小さくても声は通るらしい。言語も通じた。この世特有のものなのだろう。

 さまざまな生き物がいる中で特に多かったのは、人間だった。ブスや馬鹿っぽい人が多い。見るからに、生前徳を積めそうになかった人たちだ。人間という最高物件を手放したくないのだろう。内心で彼らを馬鹿にしたが、私も全く同じで一人で恥ずかしくなった。

 私の番がまわってきた。志願書を受け付けの男性に渡し、しばらくの審査時間の後、彼から数個の質問を受けた。

 「転生先は東大卒と美人の間に生まれた子供、ですか。はいはい、東大というのは東京大学のことですか?」

「もちろんです。」私は自信満々に答えた。

 「はい。そうしますと、結構厳しいような…。」語尾を弱めながら、パソコンのマウスをカサカサ動かし始めた。

 「非常に難易度が高くなっちゃいますね。枠が本当に少ないんですよ〜。ちょっと、貴方の前世の振る舞いから、狙えるかどうか精査させて頂きますね?」

 「はい。」

 マウスの音が激しくなった。

 私は前世の行いが見られていると思うと恥ずかしくなり、手を後ろで組んで、上半身を左右にクルクル動かした。

 5分くらいで彼の声が聞こえてきた。

 「えっとですね。申し上げにくいのですが〜、大変厳しいかんじとなっておりますね。来世は聡明な美人となっておりますのが、別に東大以外の方でもよろしいですかね?例えば、マーチだったり。」

 「え〜。う〜ん。ちょっと微妙かな〜?もっと私にあったいい条件のところないの?」

 「そ〜うですね〜。う〜ん、なかなかそれがなくてですね〜。でも、僕はいいと思いますよ。楽しい人生が送れるはずです。」

「まあ、仕方ないわね〜。いいですよ、それで。また来来世に期待します。」

 彼がパチパチとキーボードを打つと、出口が私向けになっているコピー機が作動し、そこから受験票がピーっという音とともに出てきた。私が受験票を手に取ると、彼は窓口から顔と手を出して、指さしを加えた道案内をしてくれた。その時の彼の顔が、えらく美形だったのを私は忘れないだろう。私は2、3回適当な会釈を済ませると、先に進んだ。


 試験会場は、大学の建物のようになっていた。そのため、試験も大教室で受けることになりそうだ。指定された教室の指定された席に着くと、早速試験の説明が始まった。試験官のえらい綺麗な女性が壇上に上がって、マイクを口に近づける。

 おいおい、ちょっと待て。受験者ほとんどいないじゃん。と私は思い、周囲を見渡すと、どの席にも小さな生き物が、机で隠れていただけでしっかりスタンバイしていた。

 私が前に向き直すと、壇上の女性が開口した。

 クールな風貌の彼女は眉間に皺を寄せ、腰に手を当てている。教壇の上に目を落とすと、ものすっごいカワボで挨拶を始めた。


 

 

 


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