第2話 プロローグ2
「う〜ん、やっぱりダメねぇ。」
「女神様、やはり私にはアメンボのような人生がお似合いなのでしょうか?」
女神はびくりと肩を震わせて、かぶりを上げた。
「ひえっ!ビックリした〜。」
彼女の声を気にもとめず、私は手元のファイルに目を落とす。カゲロウやセミの写真が見えた。
「ちょちょちょっ。人の資料勝手に見ないでくれる?」
女神はちょっと怒った風にファイルを盾にして、背表紙だけを私に見せた。
「御免なさい。つい生前の自分が出てしまって」
「そんなんだから、死ぬ時まで孤独なのよ!」
彼女の言う通りだ。私は高校生の頃「告げ口の明梨」、OLやってからは「意地悪明梨」と呼ばれていた。
どうしてこんなあだ名が付けられていたかというと、単純に人の好きな男の名前をその男本人に告げたり、人のミスを出来る限り多くの人に広めていたからだ。
私に華のある話題が無かったから、他人の出来事にやたらと興味を抱いていたのかもしれない。高校の頃なんて、恋が失敗に終わった女の子を見ると、同じモテない友達、香織と2人で陰で笑い転げていたものだ。2人で1週間は落ち込んでいる子をいじってやった。もちろん、噂も広めた。そしたら3人目の子、「死んでやる!」と喚きだして、教室の窓枠に手をかけて、足を持ち上げ出したんだ。その時はヤバかったな〜、危うく間接的に人殺しになるところだった。近くの男子が止めたから良かったけど。で結局その子、その男子と付き合い始めたんだっけ?
正直、その時に気付いておくべきだった。香織はその一件以来、私とつるむのをやめて、不細工な男子校の人と付き合い始めたんだっけ。私はその時、香織を裏切り者呼ばわりしたし、遊び友達がいなくなって寂しいなとしか思わなかったな。
高校出てOL始めると、まず最初にハゲでデブの酔っ払いおじさん上司から「君、顔悪いから、出来るだけ椅子に座っててくれる?うろちょろされると気が散るんだよね。」と言われた。私は「は?」となって、そいつに強めのビンタを一発かますと、飲みの席が一瞬で凍りついた。その時は知らなかったんだけど、その人、数店舗を取り締まっている結構偉い人だったらしい。でも、彼に非があるってみんな私を守ってくれて、その時は彼の方から謝りに来てくれた。私は許すつもりはなかったけど。
でも、それをよく思わない女どももいたらしくて、その日を境に陰湿なイジメが始まった。特に陰口が多かった。給湯室の近くを通ってそこに女どもが2人以上いれば、大抵私の悪口が聞こえてくる。壁を殴って罵詈雑言を怒鳴りつけてやりたかった。高校生までは、そのやり方で全てを黙らせていた。だけど、私はもう大人で、そういうことが許される年ごろでもなくなってきていた。偉い人をぶって許されたのは運が良かっただけなのも、重々理解していた。
だから、私も陰口をいう側にまわった。女相手だとなにかと怖かった私は、男をターゲットに情報収集をしはじめた。男が席を立ち去った後の机や彼らのタバコ休憩の無駄話を狙った。そして、得られたネタを給湯室に持ち込んで、女どもの中心にたった。2、3ヶ月続けると、彼女たちも私に気を許すようになる。それを狙って私は彼女らを獲物に食い始めるようになった。
「ちょっと聞きてるの?ボーッとして。あなた生前、相当悪いことしてきたでしょ。悪事が全部ここに書いてあるのよ!」
女神は、いつの間にそこにあった机に置かれてある分厚いノートを上から叩いた。
「結構、悪口が多い人生だったみたいね。言葉は時としてナイフよりも鋭い切れ味を出すのよ。それを理解して、人と接してきたのかしら。」
私は適当に「まあ。」と呟いて目線を逸らした。
「まあいいわ。ところであなた、転生先どうする?私のおすすめはすっごく短命な微生物で徳を積むってのだけど、下手に動物あたりに手を出したら、また痛い目にあうわよ。」
「微生物ですか…。楽しくなさそう。」
「楽しくなさそう?そりゃあ、楽しいものじゃないでしょうね???でも、次の転生先をまた人間に選んだら、今度は世界一のブサイクでしかも運もめちゃくちゃ悪い女の子しかないわよ。それでもいいなら、それにするけど」
「可愛い方が…できれば…。」
「ありません。そんなものは。」女神はキッパリとそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます